研究課題/領域番号 |
25370128
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
片山 まび 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (80393312)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 韓国・朝鮮 / 倭館 / 御本茶碗 / 狩野常信 / 窯 |
研究実績の概要 |
本年度の研究の目的も前年度に引きつづき、第一に釜山窯に関連する製品および窯道具の調査、第二に茶碗の下絵を描いたとされる狩野常信との関連調査、第三に釜山窯との関連のある日本の御用窯等についての調査である。 第一の目的に関する海外調査は、ソウル韓国国立中央博物館にて昨年に引き続き釜山窯の窯道具と密接な関係を示す17世紀から18世紀代の官窯出土の窯道具調査、梁山博物館にて法基里窯出土の呉器茶碗片、梁山地域の製品とみられるヨンダン里遺跡出土品の調査、釜山市内の古館の区域確認のための写真撮影などを行った。その結果、昨年よりも釜山窯と官窯との関連、古館窯の位置、梁山地域の窯との関連などがさらに明確になった。 第二の目的については、狩野派研究者のご協力を仰ぎ、御本茶碗を数多く発注した土屋政直との関連が深い土屋蔵帳、また従来の研究で引用されてきた宗家文書について改めて再読を行った。その結果、御本茶碗に描かれた松竹梅、鶴、人物画が絵画でも好んで発注された画題と一致することが明らかとなった。 第三の目的については、愛知県陶磁美術館所蔵の御深井などの調査を行ったほか、近世日本陶器窯に関する報告書などについての収集を行った。特に御深井は釜山窯と同じく既に評価の定まった高麗茶碗を写しながらも模倣の度合が釜山窯に比べて高く、技術の系譜は別として比較対象として考察するうえで興味深い対象であるとの感触を得た。 以上、本年度の調査研究の成果は、1-梁山から古館窯までの変遷を裏付ける資料がさらに増加したこと、2-武家が発注した画題が絵画と茶碗で共通すること、3-技術の系譜は別として、高麗茶碗の写しを行うことにより、社会的な関係が結ばれた可能性を新たに知ることができた。以上の調査研究により、本研究のテーマである「高麗茶碗によって結ばれたネットワーク」の片鱗を確認するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、釜山窯を媒介とする大名家、絵師、陶工のネットワークの実態を解明することにあるが、これに関する資料が調査によって少なからず得られたこと、また来年度につながる基礎資料を収集、またその一部の分析を行ったことから、おおむね順調に進展していると評価したい。なお昨年の成果にもとづき、韓国の学会にて釜山窯のうち古館窯についての学術発表を行い、韓国の研究者からも貴重なご意見を賜った点も自己評価基準のひとつとなると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当初の予定どおり「小井戸」の系譜に属する茶碗について海外調査、国内調査を行う予定である。具体的には新たに慶尚南道で報告書が刊行された窯址や消費地出土資料を中心とした海外調査、伝世品や窯址、消費地遺跡出土品を中心とした国内調査を予定している。また今年度の調査で基礎資料やデータがそろった部分については、具体的に分析と考察を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった書籍が入荷せず、年度末でもあったため、翌年度に繰り越しをすることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予定どおり、書籍購入に充てる予定である。
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