本年度の研究目的も前年度にひきつづき、第一に釜山窯に関連する製品および窯道具の調査、第二に下絵を担ったとされる狩野常信の関連資料調査、第三に日本国内の近世御用窯との関連考察である。 第一の目的を果たすため、国外調査では、韓国釜山市博物館において蔚山(機張)上長里・下長里窯址の調査を行った。機張は釜山窯に陶工を派遣した地域にも相当し、同年11月より釜山市鼎冠博物館にて開催された「機張陶磁」展において論考を発表し、その具体的な可能性を提示した。そのほか倭館の具体的な姿を把握するために近代期の写真や地図の収集、釜山近郊の積出港址や山城の踏査、関連する古館跡の踏査等を行った。あわせて昨年度に発表を行った古館窯に関する推察に関する論文が刊行された。 第二の目的を果たすため、引き続き宗家文書の読み込みを行い、先行研究の再確認作業を行った。 第三の目的を果たすため、国内調査では、京都出土の茶碗調査のほか、松江藩の御用窯であった島根県楽山焼について手銭記念館、島根県立美術館、松江市教育委員会等にて作品調査を行った。先年に調査を行った御深井とは異なり、楽山焼はより創作性が強く、さらに高麗茶碗の本歌に近しい特色を持っていることが明らかになった。 以上の調査・研究の意義と重要性のうち、最も重要な成果は謎の多い釜山窯に派遣された在地の陶工たちの技術系譜について明らかにし、論考として発表したことにある。本件に関する成果を韓国で発表したことにより、現地における研究が進むことが期待される。第二に日本の御用窯において御本茶碗の要素の共有の有無があったことが明らかとなってきた。この点については、次年度以後も考察を深めていくこととしたい。
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