最終年度は、時祷書・祈祷書類にみるトマス・アクィナス図像と崇敬に関する研究を発展的に継続する、以下の3点から調査、資料収集、研究を行った。 まず、3巻構成の『フィリップ豪胆公の大時祷書』の実地調査を行った。ブリュッセルとケンブリッジに分蔵される同時祷書の2巻については、実物を閲覧しテクストと彩飾を詳細に調査した。残る1巻は、祈祷文や挿絵の余白に複数の巡礼バッジが縫い付けられた痕跡が残り、中世末期の信仰実践における美術の多彩な機能の実情を明らかにする資料として特に重要だが、保存状態のゆえモノクロのマイクロフィルムによりその全体の概要を確認する形となった。 実地調査を通じて明らかになったことは、同写本が前年度に研究を行った『ベリー公の小時祷書』と『ベリー公のいとも美しき聖母時祷書』より先行してドミニコ会就中トマス・アクィナスに由来する祈祷文を収録するが、アクィナス図像の革新性への寄与の功績は、ベリー公の写本群に譲ることである。他方、同時祷書は本研究課題に先行して調査したアクィナスの著書にみるアクィナス図像の伝統を継承する一方で、15世紀末以降のネーデルラント、スペイン、イギリスへと連なる彩飾時祷書写本とその使用にみる展開を予告する特徴を合わせ持つことも明らかとなった。 そこで第2点として、アクィナス由来の祈祷文および図像の時祷書類への収録の端緒となるパリやアヴィニョンの1370年代末から90年代に制作された彩飾写本群のテクストと彩飾を一覧資料にまとめ、研究課題を整理する論文を投稿した。 第3点は、アクィナス由来のテクストとアクィナス崇敬の広範な流行を今後発展的に続行する事も念頭に、歴史学で先行するメモリア研究に注目し、その研究方法を典礼美術を中心とする美術史研究に応用する試みを研究発表で行った。
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