本研究は、ゴシックから初期ルネサンス期のフランスを中心に、西欧各地の彩飾時祷書・祈祷集写本を主たる対象として、ドミニコ会士聖トマス・アクィナスに関連する祈祷文テクスト並びに彩飾の研究を通じて、当代の平信徒らの信仰の実践の深まりに寄与する視覚イメージの多彩性と機能の重層性の様態を解明し、ひいては中世美術におけるドミニコ会の貢献の一端を明らかにするものである。 最古の作例は、ヴァロワ王族の為に14世紀末のパリに既存の図像を応用して成立した。その後の西欧各地への制作注文地の拡大に伴う図様の多彩化は、平信徒のトマス崇敬がドミニコ会の関与の下、聖体を中心とするトマス神学の記憶に依拠する可能性を示唆する。
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