1.初年度に実施した所在調査のアンケート結果、および新たな情報提供によって確認された機関等において調査をおこなった。調査は作品を所蔵する機関・個人所蔵家等に研究代表者が赴き、作品の熟覧、調書の作成、デジタルカメラによる画像記録という手順で実施した。本年度は東京国立博物館(東京)、香川県立ミュージアム(香川県)、個人所蔵家(東京都・京都府・大阪府・兵庫県・福岡県)などにおける調査を実施した。なお作品の保存状態が悪い、所蔵機関の展示計画との折り合いがつかない等の理由により、調査が叶わなかった作品もあった。 2.1で得た調査データを、前年度に作成したデータベースに加え、デジタル情報の拡充を図った。また実見できなかった作品については、可能な限り既存の書籍などで作品情報や画像を収集し、データベースに追加した。 3.上記の調査データを分析・考察した結果は、以下の通りである。(1)紀州徳川家の御庭塗である偕楽園塗は、器形・木地構造・文様構成・漆の調合方法・塗り重ねの材料や手法が、唐物彫漆とは大きく異なることが確認された。(2)玉楮象谷(1806-1869)の彫漆については、真贋の篩い分けが必要なため、高松松平家旧蔵品などの伝来の確かな作品を主体に調査を実施した。漆の塗り重ね手法は唐物彫漆に近い手法がとられているが、文様や文様構成などには象谷の独自性が見出せた。(3)堆朱楊成に関しては、蔵品目録等で堆朱楊成作と記載された作品を調査したが、実物を確認するといずれも作銘や箱書が伴わず、堆朱楊成作の情報は伝承によるものであることがわかった。その一方で、唐物彫漆には堆朱楊成の極書や箱書を伴うものが多くみられた。このことから堆朱楊成は彫漆の制作者ではなく、古筆鑑定における古筆家のような、唐物漆器の鑑定をおこなう職能者であった可能性が高いと考えられる。
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