研究課題
本年度は、昨年度に引き続き古代ローマを代表する上質土器であるテッラ・シギラタに関して諸外国及びわが国における文献の収集と分析を続けるとともに、これまでの調査研究の総括をわが国の古代ローマ研究者が最も多く参加する日本西洋史学会において発表したように(「テッラ・シギラタ」、2015年5月17日、富山大学)、本研究は順調に成果をあげていると考えられる。研究目標の完遂において妨げとなっているのは、工房遺跡の現地調査であり、地中海世界最大のテッラ・シギラタ生産地であるチュニジアにおけるテッラ・シギラタ工房現地調査を本年度も目指したが、相次ぐテロの影響により断念せざるを得なかった。それを補うための資料収集として、フランス共和国マルセイユ市ジュール・ヴェルヌ遺跡における発掘出土未発表資料の研究においてテッラ・シギラタを扱う一方(Quevedo A., Mukai, T. 2016)、同国オート=アルプ県のギャップ市在の県立博物館に収蔵されている、同市出身の鉄道技師クレマン・オーベールによって19世紀末にチュニジア・アルジェリア国境地帯において集められた考古学コレクションの研究プロジェクトに参画した。現在では完全に近寄ることのできない地域であるこの国境地帯の遺跡群から発見された500点以上の古代土器コレクションの中核を占めるのは、現在まで研究の進んでいない地方産テッラ・シギラタである。そのほとんどが完全な形で保存されていることもあり、このコレクションの研究はチュニジア中南部産テッラ・シギラタ研究において多大な貢献となる。その成果の一端はすでに2016年度中に雑誌掲載されることになっている(Mukai et al. 印刷中)。
3: やや遅れている
現在までのテッラ・シギラタ研究の文献からのアプローチの進捗状況は十分であり、その成果は西洋史学会において発表された。進捗状況の遅れは、ひとえに海外調査が未了であることにつきるが、本年度は遂行できなかったチュニジアにおける海外調査の代わりに、フランスにおいて遺物研究に携わり速やかな成果を出したことで、テッラ・シギラタ自体に関する研究、特にテッラ・シギラタの生産・流通に関わる実際の遺物・遺構を通した研究の達成度の遅れを多少なりとも補うことが出来たと言える。
チュニジアで予定していた現地調査を本年度行うことにより、本研究の進捗状況の遅れを解消する予定である。チュニジアの文化財課研究員から北部チュニジアにおける現地調査についての許可と滞在時の安全に関してのサポート受け、紀元後2世紀以降地中海世界最大のテッラ・シギラタ生産地となったアフリカ属州(現在のチュニジア・リビア西部に相当)の現地調査をもって、海外調査を終了する。チュニジア南西部産テッラ・シギラタについては、当該地域における安全確保は現時点で不可能であることから、フランスのギャップ市在県立博物館収蔵のクレマン・オーベールによる考古学コレクションの研究に引き続き参画することで補う(本年度は当該コレクションの博物館カタログ製作に参画する)。
次年度使用額が生じた理由は予定していた海外現地調査を行えなかったことに因る。目的地であるチュニジアにおける治安の悪化が原因である。イスラム国支部の拠点がある内陸部は調査対象からは早期に外れていたが、観光地でもあるチュニスやスースといった大都市において発生したテロとその後の混乱により、現地研究者から研究代表者単独での調査に難色が示されたことによる。
海外現地調査に重点を置くことにより活用する。調査候補国(チュニジア)の治安の回復とともに、現地における研究体制が整備されつつあり、現地研究者からは調査候補地を絞り込むことにより調査は可能であると承認を受けたことから、対象地を北部チュニジアの工房遺跡に絞ったうえで調査を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Histoires materielles : terre cuite, bois, metal et autres objets. Des pots et des potes : Melanges offerts a Lucien Rivet. Archeologie et Histoire Romaine
巻: 33 ページ: 215~235
Antiquites Africaines
巻: 52 ページ: -