研究課題/領域番号 |
25370153
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神奈川県立金沢文庫 |
研究代表者 |
梅沢 恵 神奈川県立金沢文庫, 学芸課, 学芸員 (60415966)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 外来文化受容 / 東国美術 / 夢窓派 / 鎌倉文化圏 |
研究概要 |
本研究は鎌倉地方に関連する中世絵画について作品調査、文献資料の収集、蓄積を行うことにより、鎌倉から南北朝期における絵画制作の実態の把握、流通およびそれを可能にしたネットワークを明らかにすることを目的とする。 本年度は中世絵画を多く所蔵する寺院(円覚寺、称名寺、慈済院等)を中心に作品調査を行った。また、文献資料により鎌倉にかつて所在したと考えられる絵画制作の記事や画家に関するデータ等を収集・蓄積した。特に金沢文庫古文書の唐物関係資料から交易によってもたらされた舶載画についての同時代的な評価、価値観を分析した。鎌倉末から南北朝時代における京都、鎌倉間における人と物の移動、流通について夢窓疎石および夢窓派の関与が認められる絵画作品から考察した。中国・元時代および室町時代の補作からなる円覚寺所蔵五百羅漢図(全50幅)の作品調査を行い、各幅の図像、画風等について検討し、研究会において報告を行った。 円覚寺創建時における鎌倉地方における華厳美術の受容について、華厳三聖像のや称名寺聖教に含まれる明恵著作の写本などから考察した。(梅沢恵「中世鎌倉における華厳美術の移入と受容について」『東大寺 鎌倉再建と華厳興隆』神奈川県立金沢文庫、2013年10月)また、鎌倉地方にもたらされた中国・宋、元代の仏画の制作地(寧波)の探索、五百羅漢図に描かれている天台山石梁等の仏教史蹟、建長寺所蔵毘盧遮那三尊像の図像の源流である華厳三聖像(杭州・飛来峰)、鎌倉地方の羅漢図の図像に親縁性が認められる烟霞洞の羅漢像等の調査を行った。 平安~鎌倉時代の絵巻「辟邪絵」に描かれる西域の毘沙門天像図像の日本における受容について検討し、絵巻の主題について再考した。(梅沢恵「矢を矧ぐ毘沙門天像と『辟邪絵』の主題」『中世絵画のマトリックスII』青簡舎、1014年2月)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は中世絵画を多く所蔵する寺院を重点調査の対象とし、所蔵品リストから本研究に関わる作品を中心に調査を行った。研究代表者が神奈川県立金沢文庫へ異動したことにより、唐物関係資料など同時代の文献資料に恵まれる称名寺の所蔵品の調査が容易となった。現在までに散逸してしまったものを補完するために、文献資料により鎌倉地方にかつて所在したと考えられる絵画制作の記事や画家に関するデータ等についても収集・蓄積を進めている。 また本研究では、夢窓疎石および、室町時代に禅宗の主流をなした夢窓派の周辺の絵画作品の研究を行い、鎌倉末から南北朝時代における京都、鎌倉間における人と物の移動、流通を明らかにすることを目指している。天龍寺慈済院の所蔵絵画悉皆調査、光明寺(相模原市)所蔵の夢窓疎石頂相の制作背景の解明のために、廃寺となった寺院も含め、鎌倉地方における夢窓派の拠点寺院と伝来作品の調査を進めている。その成果は27年2月に開催する展覧会「津久井光明寺の歴史と美術―夢窓疎石ゆかりの禅宗寺院」にて公開、報告する予定である。また、応募者がこれまで取り組んできた中国・元時代および室町時代の補作からなる円覚寺所蔵五百羅漢図(全50幅)の画中に羅漢に仮託されて描きこまれている実在の人物の肖像について考察するために円覚寺関係の頂相(禅宗祖師像)の調査を行う予定であった。調査候補作品のリスト化は進んでいるものの、調査には至っていないため、次年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、鎌倉地方に伝来する中世絵画作品のデータベース化を進め、写真入りの作品目録を最終年に刊行する予定である。当初予定していた鎌倉派絵巻の調査が職場環境の変化に伴う時間的な制約から思うように進められていない。一方、仏画、頂相については順調にリスト化が進んでいるため、当面は準備が整った作品から優先的に調査を進めていきたい。また、金沢文庫古文書の唐物関係資料については所属する研究機関ですでにマイクロフィルム撮影がなされており、これらの活用により、研究の効率化をはかりたい。 次年度以降も引き続き、応募者がこれまで取り組んできた中国・元時代および室町時代の補作からなる円覚寺所蔵五百羅漢図(全50幅)の各幅の図像、画風について検討する。特に画中に羅漢に仮託されて描きこまれている実在の人物の肖像について考察するために円覚寺関係の頂相(禅宗祖師像)の調査を行う。特に夢窓疎石門下の義堂周信、方外宏遠らの創建寺院を中心に所蔵作品のリスト化を進めている。その研究成果は27年2月~4月に所属機関で開催する展覧会「津久井光明寺の歴史と美術―夢窓疎石ゆかりの禅宗寺院」にて公開し、刊行する展覧会図録等で報告する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はほぼ計画どおりに実施できたが、10円以下の端数を次年度に繰り越す。 本年度と同様に計画的に使用する。
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