研究課題/領域番号 |
25370158
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
清水 知子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00334847)
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研究分担者 |
李 香鎮 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 教授 (80535964)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 人種 / 映像 / エスノグラフィ / トランスナショナリズム / 多文化主義 / 公共性 / 国家 / グローバリゼーション |
研究実績の概要 |
本研究は、デジタルメディア時代において映像文化がどのような社会的役割を果たしているのか、その可能性と課題を考察するものである。本年度は主に以下の点に重点をおいて研究を進めた。
1)デジタルメディア時代において、中国、日本、韓国を中心とするアジア映画の代表的な作品を比較しながら表象分析を試みた。同時にそれらの作品がトランスナショナルな文化の生成にどのように機能しているのかを考察した。とりわけ、アジアにおいては、北朝鮮のイメージを中心に、ハリウッド映画によって生産された北朝鮮のイメージがいかに拡大再生産されているのかを資料及びインタビューにより詳細に分析した。その結果、以下の3点が明らかになった。①北朝鮮による軍事的挑発とハリウッド映画の表象が巧みにリンクしながら流通し、消費されている。②ハリウッド映画が描き出すステレオタイプな人種表象が、北朝鮮だけでなく、北朝鮮住民、韓国人、在日、朝鮮族、アメリカにおけるコリアン・ディアスポラにおいて差異をともないながらかなり固定したイメージとして流通している。
2)デジタルメディアに関する映像の制作状況、及び理論的展開について、研究会を開催しながら考察を深めた。英国、ドイツなど欧米においては相次いで「多文化主義の失敗」が語られるなかで、トランスナショナルな文化をめぐる議論がどのように更新されているのかを理論的に考察した。具体的には、映像理論としてニューマテリアリズム関連の文献を、また社会、文化理論として、ジャック・ランシエール、ジュディス・バトラー、スラヴォイ・ジジェク、ネグリ/ハートらの理論を整理しながら考察を進めた。 今後はこれらの理論的な可能性とそのジレンマを突破する手法を、ドキュメンタリー映画および現代アートの制作過程から考察して、その成果をまとめていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は2年目にあたるので、国内外のインタビュー調査、資料収集に努めると同時に、昨年の成果を学会、論考で発表した。概ね計画通りに進行している。 1)2014年7月に「共生社会における日韓の若者の歴史認識と新たなアイデンティティ」と題してトランスナショナル映画シンポジウムを立教大学で開催した。関連分野の研究者、映画監督の講演をもとに一般公開で開催し有意義な議論ができた 。 2)2014年8月には李が日本学術会議が主催した「環日本海の文化交流」に参加し、「東アジア伝統演劇とメロドラマ映画の諸相」のコメンテーターとして発表し意見交換を行った。 3)海外では、2014年5月に李がイスラエルのヘブライ大学と韓国の梨花女子大学で日本における韓食文化とコリアンタウンで行われている反韓示威に対する講演及び発表を行い、また7月、11月に韓国のソウルおよび大田で開催された国際学術大会でアジアの映像文化とニューメ・ディアに関する論考を3回にわたって発表した。9月には清水がロンドンで欧米のメディア文化における人種、社会的公正についてのインタビュー調査、資料収集を行い、またメディア研究者と意見交換を行った。2014年11月及び2015年1月には清水が国内の研究会において研究成果を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度にあたるため、3年間の総括としてシンポジウムを開催し、その成果を出版物として公開する準備を進める予定である。
1)昨年度までの調査を国内外の学会において発表し、意見交換を行う。学会発表については、すでに5月に国内において、6月にアメリカ、7月にポルトガル、8月にインドネシアで開催されるパネルで発表することが決定している。
2)秋に三年間の成果を総括する国際シンポジウムを開催し、その成果を著作として刊行する予定である。
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