研究課題/領域番号 |
25370160
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平野 恵美子 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (30648655)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バレエ / インド / 舞踊 / シャンカール / パヴロワ / バレエ・リュス / ジャンル・ヌーヴォー / オリエンタリズム |
研究実績の概要 |
私の研究すなわち,「ジャンル・ヌーヴォーとしてのインド舞踊とロシア・バレエの出会い」において,20世紀初めの欧州で東洋人芸術家がどのような活動をし,影響を与え与えられたかについて調査することは,中心的な課題である. 19世紀半ば以降,オリエンタリズムの次の段階は,実際に東洋人が欧州を訪れ交流が増えることによって起こり,西欧人は東洋やアフリカのモチーフを自らの芸術に取り入れた.その後,西欧では,第三世界の芸術とさらに真摯な態度で向き合うようになり,霊感を受け,最終的にその作風にダイナミックな新機軸を与えられることとなった. それはインドとロシアの出会いに限定されない.なぜなら芸術の現象は,二国間のみで起こるのではなく,地域全体を巻き込んで発生するからである. ウダイ・シャンカールとアンナ・パヴロワの出会いと共演はロンドンだったが,今年度はイギリスの他の都市にも目を向けて比較検証することにした.具体的には,当時めざましい勢いで発展し,日本とも多くの交流があったグラスゴーと,この街出身の建築家チャールズ・マッキントッシュ,万国博覧会,ジャポニズムの影響等について調査し,これまで個別に論じられがちだった,政治・経済と文化交流の相関関係を,明らかにしようと試みた. 産業や工業の発展に伴う新しい素材や機械への憧れ,労働の賛美と,一見するとこれに矛盾するような古代回帰,自然主義,耽美主義といった,これら全ての要素が,行き詰った西欧文明に新機軸を与え,新しい芸術の潮流が生まれるための強力な媒体となった.そこに留学生や万国博覧会,植民地政策などによってもたらされた東洋の芸術が,さらに大きな影響を及ぼした.それは人々の家庭における陶磁器などの装飾品のような,単なる流行の「日本趣味」から,芸術家の中で昇華した新しい一芸術様式としての「ジャポニズム」を生み出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25度は,グラスゴー美術学校,ハンテリアン美術館,ケルヴィン・グローヴ美術館・博物館,チャールズ・レニー・マッキントッシュ協会,大英図書館等で,資料収集・調査を行なった.これにより,19世紀末から20世紀初頭ヨーロッパにおける,アール・ヌーヴォーや象徴主義運動の発生から発展という縦軸に,日本やアジア,アフリカといった第三世界の芸術文化の影響が横軸となって交わるという現象が,形は少しずつ違えども,欧州各地で同時多発または時間差を伴って起きていたことが改めて確認できた. 技術者になるべくして欧州で学んだ日本人留学生と,マッキントッシュのような芸術家達の間に,一見すると,直接的な横の関係は無かったかもしれない.だが技術や経済のような実践的な目的で欧州に渡った東洋人が,まず先駆けとなって,ハイ・アートではない民謡のような民衆文化が持ち込まれたのではないかという実感を得た. また,1931-38年のシャンカール舞踊団の活動について記した”Shiva Onstage”の著者であるDiana Brenscheidt gen. Jost氏と連絡を取ることができたのは大きな収穫だった.だが私の欧州訪問時,同氏はメキシコにおり,残念ながら直接面会することは,今年度はかなわなかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成25度は,「東洋と欧州の交流とその結果として生まれた新しい芸術様式」の一例として,20世紀初頭の日英交流関係の調査研究を,ロンドン以外の都市で試みた.しかし本年度も,体調やスケジュール等の事情で,インドへの渡航ができなかったので,平成26年度は,渡航調査を実現させたい. そして,インド本国におけるシャンカールの活動とその影響,また本年度に調査したジャポニズムの日本における還元効果などを調査し,日本の芸術文化への影響を究明したい.そのために,原点に立ち戻って,バレエ・リュスのオリエンタリズムとジャンル・ヌーヴォー,その日本での受容にも目を向ける. また,平成24-25年度中に収集した資料の整理を積極的に行ない,出版・シンポジウムの開催に向けて具体的に成果を発表する方向に進みたい.そのために,Brenscheidt gen. Jost氏始め,他の専門家・研究者との一層の連携協力を推進していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25年度も,平成24年度同様,渡航は欧州のみに留まり,主に資料収集(インプット)に費やしたため,予定より使用額が少なかった.
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次年度使用額の使用計画 |
インドにおける研究調査旅行と,それに関わる人件費,また,これまでの研究調査の成果発表(アウトプット)のための,出版・シンポジウム開催等の準備のために使用する予定.
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