オリエンタリズムは19世紀末から20世紀初頭のオペラやバレエの大きなテーマの一つだった。本研究課題では、19世紀の帝国主義的なオリエンタリズム・バレエから、異国の文化や芸術に対してもっと真摯な態度で忠実に自分たちの芸術に取り入れようとする「ジャンル・ヌーヴォー」の変遷を調査した。例えば、クラシックバレエの巨匠マリウス・プティパは《バヤデール》《エジプトの夜》といったオリエンタリズム・バレエを創ったが、バレエ・リュスの振付家ミハイル・フォーキンによる《エジプトの夜》《青い神》などは、「ジャンル・ヌーヴォー」的バレエであると考えられる。一方、当時の帝室劇場では、G・コニュス作曲による《ダイタ》というジャポニズム・バレエが上演され、そこでは日本の民謡が編曲され取り入れられた。また、元バレエ・リュスのバレリーナで世界的に有名なアンナ・パヴロワは、1922年のアジア・ツアーの後、翌1923年ロンドンで、日本舞踊やインド舞踊を舞台で再現したが、ここでは無名のインド人舞踊家ウダイ・シャンカールと共演した。このことはシャンカールを有名にしただけではなく、インド舞踊を西洋に知らしめると同時に本国での復興という効果ももたらした。以上のように19世紀は西洋人の想像力の中にあった東洋だが、20世紀は現実の東洋により接近が見られる。またそこには高度な訓練や技能を要する芸術と民衆芸術や「アマチュア」芸術家との交錯があった。本課題の中で、アンナ・パヴロワは重要な研究対象の1人だが、最終年度は特に、モダンダンスの母とされるイサドラ・ダンカンとの関係性にも注目した。これらの成果は公開シンポジウムやダンカンダンスのサロンコンサートにおいてもレクチャーされ、舞踊や芸術全般に対する一般の人々の理解や興味を高めることに寄与した。
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