研究課題/領域番号 |
25370161
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
作間 美智子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (80644773)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 天然有機顔料 / 赤色顔料 / 絵画技法材料 |
研究概要 |
本研究の目的は、①天然赤色レーキ顔料(日本などで絵画に用いられてきた綿臙脂なども含む)に関する文献の集積、体系化を行うこと、②過去の文献に基づき顔料の再現を行うことである。 本年度はまず文献を集め、訳出することを行っている。文献に関しては、ルネッサンス時期の写本、技法書などの英訳版から、19世紀の技法材料書を、また、ロンドンナショナルギャラリーから刊行されているテクニカルブルトンをはじめとする現在の技法材料研究書を入手できたものから随時、天然赤色顔料に関する箇所を抜き出し、訳出を行っている。その中には本研究の目的②の顔料再現に有効となる具体的な処方も見いだすことができている。それに基づいて再現実験のための材料を購入した。 また、文献以外の資料調査として、和歌山県立博物館に収蔵されている江戸時代の文人画家桑山玉洲の残した画材、これには、国内で現在確認されている画材のうち、まとまった形では最古のものとみられる綿臙脂も含まれているが、これらの肉眼、顕微鏡による観察と撮影を行った。 さらに、茨木市千提寺の民家に伝来するキリシタン絵画の調査も行った。これらは16世紀末から17世紀初頭にイタリア人の画僧から直接指導を受けた日本人の手によるものとされているが、透明な赤色の絵具がさほど退色もせず残っていることが確認できた。こちらの作品についても和歌山同様に顕微鏡写真撮影を行った。 二つの調査の結果に関してはそれぞれ、『桑山玉洲使用画材道具類の科学調査(1)』『大阪府個人蔵「聖母子像」の技法に関する再考察ー西洋絵画技法史との対照によるー』というタイトルで文化財保存修復学会第36回大会にて発表を行う予定となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究のスタート年であり、①天然有機赤色顔料に関する文献の体系化、②それに基づく天然赤色レーキ顔料の作成という目的のなかで、文献を収集し、天然有機赤色顔料の箇所を抜き出し、それを訳出する作業に時間が必要であることがあげられる。これらの成果を整理し、入力する作業、また、文献に基づく顔料作成実験はこれからであることが「やや遅れている」の自己評価を行った根拠となっている。 ただし、この作業はすべての根幹となるものであり、十分に行う必要があると考えている。いままでに行った作業のなかで19世紀の文献から再現実験に必要な具体的な数量などを記した処方が複数見いだせており、実験のための材料も購入している。また、実際に100年以上前に日本で使用されていた天然有機赤色絵具を調査することもでき、その色味なども確認できた。最初の実験を行うのに必要な情報は集まっており、それが「遅れている」ではなく「やや遅れている」という自己評価とした理由である。
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今後の研究の推進方策 |
①文献調査の蓄積は今後も継続してゆく。そのなかから赤色有機顔料に関する情報を抽出したものは入力作業を行って、体系化、データベース化を進める。 ②作品調査を行い、国内外の研究機関から発表されている作品調査データなども収集して、天然赤色顔料についての内容や、画家が絵を描くにさいしての用法などについても考察し、体系化、データベース化に反映させる。 ③文献調査や作品調査の成果に基づき、まずは再現実験を行う。ついで、この実験で作成した顔料の劣化実験を行い、耐久性のある天然有機顔料作成の実現をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、基本となる資料の収集、必要箇所の抽出、その訳出作業に重点をおいた。より費用がかかると思われる今後の具体的な実験、入力作業にそなえて、当初予定したよりも押さえた支出となった。 資料の収集には継続して支出する予定である。また、得られた情報の集積、体系化のための入力作業等に使用する。収集した資料の内容に即して再現実験や劣化実験、およびその記録に使用する予定である。 また、情報収集に有益と思われる学会への参加、図書館、美術館などの調査などもにも使用する予定である。
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