研究課題/領域番号 |
25370176
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
木戸 雅子 共立女子大学, 国際学部, 教授 (10204934)
|
研究分担者 |
木戸 修 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (10126302)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 近現代ギリシャ美術史 / 近現代ギリシャ彫刻 / ギリシャ公共彫刻 / 近現代ギリシャ史 / 美術作品と主題 / 比較文化 / 国際研究者交流 / 国際情報交換 |
研究概要 |
トルコから独立して以後近代ギリシャがヨーロッパ文化の急激な影響を受けつつ近代国家を創生していく中でギリシャ人たちが問い続けた「ギリシャとは何か」の問いを近現代ギリシャ彫刻家の作品に見ようとする研究である。独立以前の美術活動とは全く異なる西欧化の道をギリシャ人は自らのアイデンティティといかに居り合いをつけたのかを彫刻で辿る。ギリシャ人にとって彫刻による美術表現は独立以後始まった全く新しいジャンルであった。長くビザンティン美術の伝統に基礎を置くギリシャ人たちには三次元表現の彫刻は教会のイコン障壁をなす木彫表現以外には存在しなかった。西洋彫刻史の祖ともいえる古代ギリシャ彫刻的表象は独立以後に西欧世界に組み込まれるなかで改めてはじめられた美術ジャンルであった。本年度はその独立戦争から現代までの彫刻史の概要を文献を基にまとめ、8月、9月に現地調査を行った。現代彫刻の現状として明確な年代を区切れる作品群の例として2004年のアテネオリンピックを目指して開業されたアテネの地下鉄の各駅に設置された彫刻の調査を行った。コンクールの審査員を務めたセオドロス・パパヤニス氏に作家の立場での選考についてインタビューし、2004年当初のギリシャの現代アートの状況を作家の目で語ってもらった。(2)現代作家たちの教育の場であるアテネ美術大学ヤニス・ラパス教授、アフロディティ・リティ教授とアテネ工科大学ヴァナ・クセヌ教授らと面会し、近現代ギリシャ作家の彫刻表現に見られるギリシャ独特の様相についてディスカッションを重ねた。ギリシャ人の近代ギリシャの「ギリシャ性」に対する公共的見解や国民意識にみるギリシャ社会と芸術について考察するために、アテネ、ヤネナ、ヴォロス、テサロニキ、クレタにおける公共的空間に設置された彫刻作品を現地調査し、テサロニキ大学のコティディス教授からは現代彫刻研究についての重要文献を入手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現代ギリシャ彫刻の拠点はアテネの美術大学であり、その彫刻科の主任教授のヤニス・ラパス、同学科のアフロディティ・リティ教授、および両者の指導者であった同学科名誉教授のセオドロス・パパヤニス氏と本研究テーマについて時間をかけて協議し、現代ギリシャの彫刻家が直面している制作活動における本質的な問題と、日本の現況を比較しつつ、両国が同時にもつ伝統的な視座とヨーロッパから受けた圧倒的な影響の相克について深く理解しあうことができた。古代ギリシャ彫刻がヨーロッパ彫刻史の基礎であるが、その彫刻表現はギリシャに独立以後ヨーロッパからもたらされる。その近代彫刻史の曙の時代にギリシャ人は非常に早く古代ギリシャに学んだヨーロッパの新古典主義的造形を手中にする。それは日本の近代彫刻の作家たちがヨーロッパ的三次元表現の習得に時間がかかったことと比較すると興味深い事実である。しかしギリシャの近代化の過程で徐々に、本来の自らの彫刻的表現の在り様を模索し始める。その過程で新古典主義的三次元表現に背を向けてプリミティヴな表現へ向かう作家たちがでてくる。そのプリミティヴな表現方法と同時に三次元的に何を表現すべきかというギリシャ独自の内容にその模索が進む。そこには古代の記憶、キリスト教的精神世界、民族的メンタリティの表出などがテーマとしてでてくる。また戦後の国際的な美術動向の影響もある。 同上の作家3人に加えて、アテネ工科大学建築学科教授のヴァナ・クエセヌ氏とともに、今後の研究で実際の作家たちと行う共同研究の計画を実際にたてることができた。近現代ギリシャ彫刻史の経験と日本の明治以降の彫刻史のそれは類似する面があり、ギリシャ人彫刻家たちもまた日本の伝統的彫刻とヨーロッパ彫刻の影響を受けた後の彫刻史に大いに関心を向けている。今後その共通の認識にたって次年度から具体的な活動を始めることができる基礎が構築できた。
|
今後の研究の推進方策 |
ギリシャ側との共通認識ができたことと、ギリシャの美術教育界の中心をなす作家4人とギリシャ現代彫刻史の一人者であるアンドニス・コティディス、テサロニキ大学教授らとディスカッションを重ねると同時に、アテネ、ヴォロス、ヤネナ、クレタ、テサロニキの主要な公共彫刻の資料を現地調査も含めて入手することができたので、その資料整理を行い、ギリシャ近現代彫刻史の概要を執筆する。 上記のギリシャ側の共同研究者たちとともに、現代作家たちの内面と作品制作上の技法的な面などを日本の作家たちと比較するために、まず共同研究者の木戸修が次年度アテネの美術大学の工房でラッパス教授とリティ教授と共同制作を行い、制作過程を通して、ギリシャの若手作家たちとワークショップを行い、両国の近現代彫刻がもつ特異性について相互理解に努める。共同制作は約2か月を予定し、本研究課題の代表者木戸雅子は、これに並行してアテネの美術大学で日本の近現代美術および伝統的な日本の宗教美術における彫刻について講義を行う。代表者は専門のビザンティン、ポスト・ビザンティン美術研究を通して得てきたギリシャ人の美術伝統に精通しているため、それとの文化比較的見地で日本の近現代美術の動向をギリシャ人に提供し、ギリシャ人とのディスカッションを通してさらに深く相互理解を進める。 第2年目の上記の活動に対して第3年目に日本で行う予定のギリシャ人作家を日本に招聘して日本人作家と共同制作に取り組む計画を次年度のギリシャ滞在中に進める。第三年目の活動は両国の若手作家同士の彫刻シンポジウムを計画している。資金の調達が必要となるが、その準備を進め日本でギリシャ人研究者と作家を招聘して本研究の主眼である現代作家の作品における過去の記憶の表象について多角的に検討する良い機会となる予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
予定していたアルバイト等の人件費が担当予定者の都合で作業ができなかったために未使用となった。 入手した資料のデータ処理などの作業を依頼するアルバイト費としての人件費・謝金の一部として使用する予定。
|