本年度は主として、前史として1920 年代から第二次世界大戦時の状況について検討した。いわゆる冷戦期以前からソ連と西側との対立は生じていると見るべきであり、その観点から、第一次および第二次世界大戦の間の戦間期・戦中期から検討する必要があるからである。 具体的には、ロシアの作曲家ストラヴィンスキー、ラフマニノフ、プロコフィエフの文献、およびアメリカの作曲家コープランド、バーンスタインらの文献を収集するとともに、ソ連共産党の文書収集に着手した。 現地調査はロシア連邦モスクワ市で実施され、ロシア国立図書館(Russian State Library)、歴史図書館(Russian State Public Library of History)で史料収集を行ったほか、ロシア国立文学芸術文書館(Russian State Archive of Literature and Arts)でのアーカイヴ調査に着手した。 ロシアから移住・亡命した作曲家たちを比較検討するなかで、作曲家メートネルにも注意を向ける必要性が浮かび上がってきた。プロコフィエフ同様に一時帰国して演奏旅行を行ったメートネルに、一度も帰国していないラフマニノフを加えると、ソ連を代表する作曲家を確保するために作曲家にアプローチしていたソ連側の思惑との関係で、作曲家側の異なる姿勢が鮮明になるからである。 他方、コープランドやバースタインらの左翼的メンタリティについては、いわゆるニューヨーク知識人らの動向とともにその位置づけを慎重に検討する必要があることを再認識した。 なお、現時点での簡潔な報告を、スラブ研究センター共同研究報告会にて、「冷戦と音楽:米ソ対立と文化交流の実態について」として行っている(7月6日)。
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