研究課題/領域番号 |
25370177
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
梅津 紀雄 工学院大学, 基礎・教養教育部門, 講師 (20323462)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 冷戦 / 音楽 / ソ連 / アメリカ / 教養主義 / 文化交流 / 雪どけ / コンクール |
研究実績の概要 |
平成27年度は主として雪どけ期に活発化した文化交流の実態の分析を行った。第1回チャイコフスキー・コンクール(1958)はその象徴である。米国人ピアニスト、ヴァン・クライバーンのピアノ部門優勝に終わったこのコンクールを通して、近代ヨーロッパ文化を基礎とした教養主義的な基盤を共有した上で、米ソ両国が文化的にも競争を行っていたことが鮮明に浮かび上がってきた。19世紀の文化を擁護するのか、あるいは前衛芸術への展開を重視するかで両国の公的な立場は異なっていたが、両者の競争が成り立っていたのは教養主義的な基盤を共有していたからであった。 他方、ストラヴィンスキーの1962年のソ連訪問は、ソ連の音楽政策の転換を鮮明に印象付ける事件であった。恐らくはフルシチョフの承認のもと、作曲家同盟第一書記のフレンニコフらがロサンジェルスの音楽祭でストラヴィンスキーの楽屋を訪れ、そして彼の自宅を訪問した際に訪ソを打診したことを発端とし、党中央が正式に許可した上で、ヒューロックの媒介のもとで実現された。訪ソの際のストラヴィンスキーの言動は、彼が米ソ両国を客観的なまなざしで観察していたことを明らかにする。すなわち、米ソ両国の輸出物はともにオーケストラやバレエ、オペラのような古典的なパフォーミング・アーツであり、保護の仕方にその差異が認められるということである。このように、米ソ両国はただ単に対立していたのではなく、共通の基盤のもとに、価値観を共有しながら競争していたことがこの時期の様々な事件において鮮明に観察できるのである。 また、同年度にはスターリン賞・レーニン賞の研究にも着手し、ソ連における芸術文化の奨励の実態や多民族国家としての独自性を浮き彫りにすることができた。 なお、以上の研究の中でソ連=教養主義国家という視点が浮かび上がってきたことが平成27年度の収穫の一つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカでの文献調査が遅れているとはいえ、雪どけ期の文化交流の重要な側面についての分析を進めることができ、その内容の一部について、いくつかの研究発表や論文を通して、発表することができている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は予定通り、「停滞の時代」の研究を実施する。ただし、これまでの研究から、「停滞の時代」はソ連音楽界に関しては必ずしも「停滞」の時代ではないことが明らかになっている。このため、時代区分は変えないとしても、その名称については変更の余地がある。適切な名称を模索しながら、研究を進めていきたい。 他方、昨年出版されたニコラス・ナボコフの評伝は、今後の研究の基礎となりうるもので、特にアメリカでの調査の方法を考えるうえで重要と判断している(Vincent Giroud, Nicolas Nabokov: A Life in Freedom and Music, Oxford University Press, 2015)。同書を慎重に読み進めて、今後の米国での調査の方法について早急に検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年出版されたニコラス・ナボコフの評伝(Vincent Giroud, Nicolas Nabokov: A Life in Freedom and Music, Oxford University Press, 2015)を検討したうえで、アメリカでの調査の方法を考えるべきだと判断し、米国での調査を延期したことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように、昨年出版されたニコラス・ナボコフの評伝(Vincent Giroud, Nicolas Nabokov: A Life in Freedom and Music, Oxford University Press, 2015)を検討したうえで、アメリカでの調査の方法を検討して実施する。
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