研究課題/領域番号 |
25370183
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
香川 檀 武蔵大学, 人文学部, 教授 (10386352)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 表象文化論 / 美術史 / ジェンダー論 / 前衛芸術 / 写真 / ダダイズム / 人形 |
研究実績の概要 |
1.昨年に引き続き、調査の中軸となる、ダダ運動とそのメンバーであるハンナ・ヘーヒ、およびラウール・ハウスマンに関する資料収集を行なった。具体的には、ベルリン・ダダが刊行した機関誌や関連文献の収集、およびドイツで1910年代末から1920年代に出版された芸術関連書籍を購入した。また、ハンナ・ヘーヒ展のカタログなど作品集を収集し、ダダ以後の彼女の作風の変化を検証した。 2.2015年8月にはベルリンに滞在して図書館での資料収集を行ない、とくに1920年代の写真とフォトモンタージュに関する展覧会カタログを写真データ化して収集した。また、ダダの身体表現技法の解明にとって重要なモチーフである「人形」に注目し、第一次大戦から戦間期にかけてのドイツにおける人形芸術と前衛美術との関係を調査した。 3.あわせて武蔵大学において、3回にわたり人形研究会を開催し、表象論の研究者数名により、ドイツを中心とする欧米の前衛芸術と人形について報告会を行なった。また、10月には、同じく武蔵大学の主宰する公開講座において「人形愛としての美術史」と題した講演を行い、後半には本研究プロジェクトの成果である、ダダと芸術人形についての内容をもりこんだ。 4.ベルリン・ダダの開発したフォトモンタージュ技法の思想的背景と、写真・文字の組み合わせによる意味生成を精査した論文「ダダのフォトモンタージュ再考――ハンナ・ヘーヒとラウール・ハウスマン」を執筆した。これは芸術史アンソロジー『近代芸術と都市』(佐藤直樹監修、全8巻、竹林舎、2013年春より刊行開始)の第5巻『ベルリン――砂上のメトロポール』(尾関幸編、2015年6月刊行予定)に掲載の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画では、 1.資料収集、および資料の整理。2.ハンナ・ヘーヒ・アーカイヴの調査。3.海外から研究者を招いての講演会・研究会の開催。4.ベルリン・ダダに関する論文の執筆。 の4点を目標としていた。 1.の資料収集と整理は、国内の洋書輸入書店の協力もあり、フォトモンタージュや写真の展覧会カタログが入手できたことなど、成果があがった。また、申請者自身が1990年代にハンナ・ヘーヒの遺族宅を訪ねて撮影した作品写真のネガフィルムを、デジタルデータ化した。2.のアーカイヴ調査は、ベルリン州立現代美術館のアーカイヴが2014年6月から2015年5月末まで長期整理期間に入ったため、26年度内には訪問が叶わなかったが、ベルリン美術図書館でそれを埋め合わせるだけの資料を発見できた。また、上記のアーカイヴが刊行した浩瀚な資料集(全6巻)が入手できたので、これを活用することができた。3.の研究交流については、ドイツで学芸員などに面談することはできたが、講演会・研究会は、日本国内の研究者との開催にとどまった。4.の論文執筆は、予定どおり運んだ。
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今後の研究の推進方策 |
1.最終年度である27年度は、研究の総括として、これまでの資料調査と作品研究に基づき、ダダ再考とハンナ・ヘーヒ研究のためのモノグラフ執筆に向けて準備を行なう。 当面は、その前段階として、ダダと人形についての論考「ドイツの芸術人形と前衛美術」を執筆し、本年度中に刊行予定の論集(香川檀編『人形の文化史――ヨーロッパの諸相から』水声社)にまとめる予定である。この人形論は、前衛芸術家たちの身体表現という点で、ジェンダー分析の面でも重要な意味をもっている。 2.27年度夏に、ベルリンなどドイツ諸都市で現地調査を継続する。ベルリンでは、再開されたハンナ・ヘーヒ・アーカイヴを活用し、ダダ期を過ぎたヘーヒが1920年代に、イタリア・フランス・オランダなど国外の芸術家たちと交流し、国境を越えて活動した詳細を調査する。 3.ダダという前衛運動や、さらには構成主義やバウハウスなど戦前の美術の潮流において、女性表現者としてのハンナ・ヘーヒが選び取った立ち位置、創作上の独自性など、アヴァンギャルドとジェンダーの問題についても、考察する。この成果は、本年9月に国立新美術館(東京・港区六本木)で開催される20世紀美術とジェンダーに関する国際シンポジウムで発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度内の2015年3月にも海外調査を予定していたが、ハンナ・ヘーヒ・アーカイヴの再開が当初予定されていた2015年2月より大幅に遅れることが判明し、申請者の勤務校での校務も重なったことから、渡航を断念した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、2015年8月と、2016年3月の2回にわたって充実した海外調査を行う予定であり、その際の旅費および資料収集のための物品費として使用する。可能であれば、面談を行ない、情報提供への謝礼としても使用したい。
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