本研究課題の最終年度となる平成29(2017)年度は、義太夫節人形浄瑠璃上演資料のなかでも特に、当初計画より遅れている浄瑠璃関係雑誌記事の調査収集、及びデータベース化の作業を中心に行った。現在までに把握している浄瑠璃関係雑誌は24誌を数え、なかには公的機関に所蔵を聞かない雑誌、巻号も含まれている。予想以上の分量と充実した記事内容のため、依然全ての資料のデータベース化(雑誌記事の総目次化、人名・演目名の索引作成等)の作業は完了していないが、研究期間終了後も継続して作業を進めて順次公開し、今後のより広範な義太夫節人形浄瑠璃研究の基礎資料として役立てる予定である。 また、本年度入手した貴重な資料として、戦後作成されたとみられる文楽座員の手書きの経歴書類や、地方における歌舞伎興行の経費等を記録した資料などがある。前者は、文楽座員31名の経歴が「松竹株式会社」用箋に記されたもので、書かれた時期や目的等詳細は不明だが、恐らくは座員自らの申告による部内資料であると思われる。後者は、大正後期から昭和前期の愛知県内における歌舞伎興行に関する記録(「共楽連演劇部 きろく」)で、演者の出演料をはじめとする経費類が詳細に記されており、下座として出演している地方在住の太夫・三味線の活動の実態を知るうえでも貴重な資料である。いずれも重要な資料ではあるが、個人情報に関わるため、公開方法については慎重に検討したい。 個別のテーマ研究としては、早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点で行った研究発表「御霊文楽座の逍遙―大正十一年近松二百年祭 大阪行―」の一部が、本研究課題の成果に基づいている。同発表では、坪内逍遙と義太夫節との関係について、既存の著作年譜類に未収録の逍遙の文楽評を紹介しながら検討し、東京における義太夫節受容の多様な在り方について考察を行った。
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