2013年度は、(1)各種資料の収集と、それらをもとにFSA写真の評価と保存に寄与した芸術化の文脈を調査し、1938年に開催された写真展とその後のニューヨーク近代美術館写真部の重要性を明らかにし、「アメリカ写真」という文化的アイデンティティの確立という観点から、学会発表と論文を発表した。(2)上記の芸術化のキーパーソンとしてニューヨーク近代美術館写真部ディレクターであったスタイケンの重要性が浮上し、彼とFSA写真の関係、そして彼が企画した写真展についての調査を行い、ルクセンブルクで保存・常設展示されている「ザ・ファミリー・オブ・マン」展と「ザ・ビター・イヤーズ」展について論文としてまとめた。 2014年度は(1)ワシントンD.C.のアメリカ議会図書館のFSA写真コレクションとカリフォルニア州オークランド美術館のDorothea Lange Archiveで資料保管とその公開状況の調査行い、(2)1930年代のダスト・ボウルに代表される自然災害の表象と1923年の関東大震災の表象についての比較を研究会で発表し、災害表象における文学的救済と写真的呵責についての発表を学会発表した。 2015年度は、前年度の写真表象における倫理的問題を(1)大恐慌期の貧困表象の中で考察し、被写体のリアクション事例の分析とドキュメンタリー写真による貧困の美学化の批判を含む論文を発表した。そして(2)被写体への暴力は写真の流通と受容の中にも見出せるという見地から、アブグレイブ収容所での抑留者の写真についてのスーザン・ソンタグの評論の問題点についての論文を発表した。さらに(3)風景をテーマにベルリン自由大学の研究者たちと国際ワークショップを開催し、ルクセンブルクでのFSA写真の調査をアメリカールクセンブルク間の国際文化交流と、歴史的な場所と建築物における写真展示を風景と見なして論じた英語発表を行った。
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