2015年度は、本研究課題の最終年度にあたるため、総括として、2013年度の研究である、文献学の方法による『河海抄』の本文研究にひき続き力を注ぐ一方で、2014年度の、『源氏物語』注釈史が何に依拠したかを考察する研究を継続し、『三教指帰』の注釈史をとりあげ、『源氏物語』注釈と歴史認識の生成、教養の基盤の問題について成果発表につとめた。 研究の第一として、『河海抄』に特徴的に見られる、『源氏物語』中の言葉(和語)に漢字をあて、出典を記すかたちの注に注目し、それらが、歴史書を出典とする言葉として中世の古辞書類に見られ、さらに同じように近世の重宝記等のなかに生きつづけることで、一覧型、便覧型の年代記類等、実際に人々に用いられていた歴史書の空間におよんでゆくことの意味を、とくに、契沖、賀茂真淵、本居宣長ら国学者の研究に注目して考察した。 研究の第二として、研究年次をつうじて行ってきた『河海抄』本文研究の成果をもとに、従来の文献学的方法のなかに閉ざすのではない、『源氏物語』、『源氏物語』注釈が実際に生きていた空間から本文を見きわめてゆく方向性を、学会誌等に論文を発表するかたちで問うことをつづけた。 また、学会シンポジウムの招待パネリストとして、注釈史においてどのようなジェンダーバイアスが認められるかというテーマを、本研究課題において考察してきた、歴史認識の生成の問題、漢字による和語の注の問題とかかわらせて、中世から近世に至る『源氏物語』注釈史を描きだす新たな研究の視座を提起した。 研究年次の三年間をつうじて考察してきた、物語の注釈が史実によってなされることの特異性について、とくに『河海抄』と同時代の私撰国史生成の現場とのかかわりを見、六国史後、正史を持たなかった日本において、歴史認識はどのように構成されたかという問題をかかわらせながら、本課題の統括となる研究をすすめた。
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