3年間にわたって、計画通り、1960年代~70年代の日本の放送メディアにおける寺山修司の創作活動について研究してきた。当初3年の研究期間を1年間延長し、最終年度である4年目の今年度は、その研究成果を単著『寺山修司論―バロックの大世界劇場―』(国書刊行会、平成29年2月刊、全584頁、ISBN978-4-336-06135-5)にまとめることに注力した。 本書は、寺山修司の放送メディアにおける作品(ラジオドラマ、テレビドラマ、テレビ・ドキュメンタリー)についての研究をまとめただけでなく、その映画・演劇作品をも含めて、寺山芸術を総合的に考究する研究集成として公刊することになった。 誇張・過剰・不規則の芸術様式であるバロック芸術を、エウヘニオ・ドールス『バロック論』は、あらゆる時代・あらゆる地域に開花しうる普遍的な文化傾向として広義に理解したが、この意味で寺山作品も奇態なバロック的性格を持っている。遊戯的な演技と変身の主題、虚構と現実の錯綜と「メタシアター」構造など、そこに見られる、「生ははかない夢であり、世界は演劇である」という世界観には「バロックの大世界劇場」を認めることができる。その「バロック常数」を寺山作品のうちに見出しながら芸術創造の秘儀を解読した。 また本書にはかつて私自身が聞き手の一員として行った「寺山修司インタビュー」や、詳細に作成した「寺山修司年譜」を収録し、研究の便宜に供した。
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