今年度は当初の研究計画に即して、地方新聞社から刊行されていた総合雑誌を対象とした調査を行った。主な調査対象は新潟日報社(新潟市)が1946年に創刊した「月刊にひがた」である。 敗戦直後、新潟日報社の社長を務めていたのは、作家・坂口安吾の長兄にあたる坂口献吉であるが、献吉に宛てた安吾の書簡には、敗戦直後の時代状況の中で地方から発信されるメディアの重要性が説かれており、新潟日報社はその提言を受け止めるようにして「月刊にひがた」を創刊したと言える。 誌面には地元・新潟県における各方面のエキスパートからの寄稿や、懸賞小説や短歌・俳句欄に対する地元読者からの積極的な投稿が見られる一方、「鎌倉文庫」関係者をはじめとした中央文壇の作家たちからの寄稿も多く見られる。また、寄贈雑誌一覧からは、全国各地のローカル・メディアとこの雑誌とが交流していたことがうかがわれる。とりわけ特徴的なのは、吸収を拠点とした文芸雑誌「九州文学」と「月刊にひがた」とが継続的に交流をもっていたことであり、その結果、「月刊にひがた」誌面には、十数回にわたって「九州文学」同人の文章が掲載されていた。 以上のような調査の結果の一部(1946年刊行分)は、すでに「雑誌「月刊にひがた」総目次(上)」(「人文研究」42、2012年3月)としてまとめていたが、今年度はその続編として1947年1月から1949年4月までを対象とした「雑誌「月刊にひがた」総目次(下)」を作成し、この雑誌に関する調査をひとまず完了させた。「月刊にひがた」は国立国会図書館や新潟県立図書館をはじめとした図書館に一括して所蔵されてはおらず、従来その全容は判然としていなかったが、このたびの総目次完成によってその概要は明らかとなった。
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