研究課題/領域番号 |
25370208
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保 勇 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 助教 (10323437)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中世文学 / 近現代史 / 芸能・芸術 / 軍記 / 平家物語 / 平曲 / 享受史 |
研究概要 |
本年度は,研究準備段階(平成24年9月)に発表した「明治期の『平家物語』研究―福地桜痴から館山漸之進,山田孝雄へ」を継承・展開する研究をおこなった.この間,大津雄一氏『『平家物語』の再誕』(平成25年7月)が公表されたので,同書を踏まえた自身の問題設定を再検討した.具体的には大津氏が整理した,明治24年を画期とする文学としての『平家物語』の波及,高山樗牛らの「英雄」論の時期(明治34年~),日露戦争(明治37・38年)以降「武士道」の称揚なされた時期,等々の諸段階を考慮に入れた問題設定である.そこで新たに注目したのが,明治一桁の年代に生まれた世代となる,梅澤和軒(精一)・小島烏水・市原隆作(自適)といった人物達である.梅澤和軒は,館山漸之進『平家音楽史』の執筆に全面的に協力,山田孝雄よりも早い時期に諸本論を展開したが,これらはほとんど知られていない.また,小島烏水は高山樗牛に先んじ「清盛論」を展開しており,高山の著述にはその影響が看て取れる.市原隆作は千葉県出身の教育者で,『悲壮史蹟 屋島と壇の浦』(明治44年)の著者であるが,竹越與三郎や池邊義象らと通じ,日露戦争に出征した経験を有するその事蹟には興味深い問題が多い.(大正1年9月の夏目漱石との交流が知られるが,人物について近代文学研究では知られていない)如上の人物達の『平家物語』をめぐる〈知〉について検証をおこなっている.これらを含め,明治末年の達成―館山『平家音楽史』,山田『平家物語考』―を再考,『平家物語』をめぐる「伝統」の衰退と萌芽と位置付けた.「伝統」の衰退とは平曲のそれを指し,福地桜痴の平曲保存活動の失敗,平曲の学術的評価を提唱した館山漸之進・梅澤和軒の失敗等によるものである(文部省国語調査委員会を批判したため).一方,福地や梅澤の諸本研究は,山田孝雄以降の諸本研究の「伝統」の萌芽として位置付けられるのである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度当初の研究目的として「明治期に多様化した〈知〉と拡大する新たな〈メディア〉を通して,軍記文学が「文化」としていかなる展開をたどったのか,その経過と様相について具体的な調査研究をおこなう」と掲げた.「やや遅れている」とした理由は,主軸となる【文献調査活動】についての遅れである.調査対象資料(『日出國新聞』)が国立国会図書館において閲覧できない事態(機関貸出)となり,調査が頓挫したこと等により遅れが生じている.一方,『文庫』等の雑誌については国文学研究資料館等で調査をおこなうことができた. 国内調査活動(遠隔地)では,弘前市立弘前図書館での調査により館山漸之進・外崎覺・梅澤和軒といった人脈を裏付けることができ,石川県立図書館での調査では中田邦造関係資料から成果を得た.ただし,計画していた所蔵機関への調査が実現しなかったものもあり,それらについては平成26年度以降に持ち越しとさせていただいた. データ蓄積作業については,収集資料のデータ化を随時業者へ委託することとし,資料の収集量の不足は否めないものの,資料集作成へ向けて作業は着実に進んでいる. 成果報告活動については,所属研究会(軍記・語り物研究会)での口頭発表をおこなっており,一定の成果公表をおこなうことができている.
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今後の研究の推進方策 |
【文献調査等】前年度の調査活動において計画に遅れが生じていることから,当該調査活動を優先して実施する.このため,当該研究活動にかかるエフォートを確保するのが最優先課題となり,職場の理解を求めていく.また関係資料について,前年度の研究発表において資料を収集している研究者の情報を得たので,既収集の資料についての情報提供を求め,作業の効率化を図る.さらに,前年度の研究によって新たに研究対象となった梅澤和軒・市原隆作等の人物に関する調査を追加しておこなう. 【調査データ集積】文献調査で得られた資料本文データの入力については,昨年度中に業者へ入力作業を委託することが確立されたので引き続きおこなう.当該年度末を目途に関係研究文献目録(目次)の作成をおこなう. 【研究交流活動】近世・近代における軍記物語の享受を考える研究者が集う研究会(会場:立教大学)が再開したので,これらの研究会を通じた研究交流活動を実施していく. 【成果報告活動】本年度予定していた「軍記・語り物研究会」での〈口頭発表〉は前年度中に実施したので,その内容を踏まえさらに発展させた研究成果(論文)を公表していく.
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次年度の研究費の使用計画 |
「物品費」「その他」の部分は,予定されていた資料購入・業務委託等が実施され,計画通りの執行となっている.しかしながら,前項「現在までの達成度」で既述した通り,文献調査活動の中で実施できていない計画があった.したがって,調査のための「旅費」,作業補助のための「人件費・謝金」(委託業務)の経費で未執行が生じることとなった.対象資料の閲覧不能,調査日程の確保等ができなかったこと等によるものである. 本年度以降の「研究の推進方策」に基づき,前年度に計画していた調査活動経費(旅費)は本年度中に執行するものとする.遠隔地調査について優先し,日帰調査は本年度を通じて継続的に実施する.なお「人件費・謝金」の部分は,収集資料をデータ化するための経費として計上したものであるが,計画書段階でも記したように,業者への委託が安価かつ効率的であるため,経費区分としては「その他」に計上することとなる.
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