研究課題/領域番号 |
25370208
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
久保 勇 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 助教 (10323437)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中世文学 / 近現代史 / 芸能・芸術 / 軍記 / 平家物語 / 平曲 / 明治 / 観光 |
研究実績の概要 |
本年度の成果発表として,研究論文「明治期〈平家〉の文化的展開をめぐる一考察」を公表した。前年度実績に示した口頭発表の成果を基盤とするが,江戸後期から明治に至る「平家琵琶」の継承と衰退等について新たな検証を加えている。頼山陽や山本亡羊といった幕末知識人らが当道の伝承者から伝授・実践した所謂「平曲」の実態を検証,それらは曲の巧拙に拘らずテキストを重視するものであり,以前検討した福地桜痴の実践はそれらを継承するものとして位置付けられると指摘した。また明治4年の「盲官廃止令」(当道座の解体)に伴う平家琵琶の衰退について,第7世江戸宗匠・福住順賀と京都・波多野流最後の検校藤村性禅という2人の伝承者の足跡を辿り,当道を継承した晴眼者たち(例:藤村門下の「重陽会」)について検証した。福地桜痴と同様,彼らもまた聴衆を得るに至らぬ水準であり,ここに平家琵琶衰退の一端を指摘している。 当課題において企図している成果として,明治期における軍記物語にかかる言説をまとめた「資料集」の作成がある。梅沢和軒の論文(新聞掲載マイクロ資料のみ)や村田直景の「平曲談」(同)等,現在入手困難な論説をテキスト化が進んでおり,次年度の完成へ向けて作業が進行中である。 市原隆作『悲壮史蹟 屋島と壇の浦』(1911)の検討などを通じ,近代における『平家物語』となった舞台=「地域」における文化活動の問題が浮上している。江戸後期(18C)の各地の名所図会には軍記物語の舞台や関係伝承が記載されているが,明治期に入って「地域」の文化活動と軍記物語の世界との関係が如何に変容したか考えなければならない。具体的には,明治末からの「郷土史」編纂事業や「観光」振興施策等についての実態調査が必要となる。「屋島」(香川県高松市)を一つのモデルケースとして検討に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画段階では,本年度は【文献調査活動】を中心に必要資料の収集・蓄積にかかる活動を予定している。これらについては次年度に取りまとめる「資料集」編纂活動と同時進行とし,最終年度に予定していた【研究報告活動】(研究論文)を本年度に実施することとした。年度毎の実施内容を変更したことで,前年度までの遅れをやや取り戻すことができたと考えている。 現在に至って,当該課題において深化した問題が2点ある。ひとつは〈中央〉を志向する〈地方〉の文化的動向の問題,いまひとつは「戦争」をめぐる軍記物語に対する認識の変化である。前者については,地方在住の雑誌投稿青年らの文筆活動や郷土の歴史を編纂する知識人らの営みから具体的に検証可能である。後者については研究論文末節で触れたように,明治近代軍事国家における軍記物語の「読み」(陸軍学校など)から跡付けられる。 以上のように計画段階から現在に至るまで,明治期における軍記物語の文化的展開にかかる諸動向について概ね俯瞰するまでに至っており,平成26年度までの達成状況について叙上のものと自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は当該課題の実施最終年度にあたり,以下の各研究活動推進にかかるエフォートの確保を第一とする。また,計画立案時から現在に至るまで,研究対象が拡大し,個々の問題も深化しているため,継続研究の立案に向けた課題の整理もおこなわなければならない。各研究活動推進にあたっては以下の方策をとる。 【文献調査および調査データ集積等】 従来遺漏の多かった明治期の軍記物語に関わる資料・文献についての「資料集」を完成させる。概ね「文献目録」と「本文編」(著作権許諾分)で構成し,簡易製本にて作成する。同時に「資料集」完成のための文献調査・実地踏査等を実施していく。 【成果報告活動】 明治期「地方」における軍記文学の受容と展開について,研究論文ないしは研究ノートを発表する。現在,千葉県における白鳥健の活動,「屋島」の観光資源化と郷土史研究という具体的問題について着手しているので,何れかについて成果を報告していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
既述の通り,最終年度に計画していた【成果報告活動】を前倒しし,「旅費」の執行を伴う【文献調査活動】を最終年度に実施することにしたため,「旅費」の費目に次年度使用額が生じることとなっている。 また,「資料集」に転載する資料データを入力するための「人件費・謝金」については,データ入力業務をアルバイト謝金ではなく,業者に依頼することとし,当該データ入力作業を最終年度にまとめて依頼(「その他」経費)する計画に変更したため,そのまま次年度使用額として残る形となった。
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次年度使用額の使用計画 |
直接経費交付決定額ベースで各費目別に最終年度の予算額を確認すると「物品費」122,576円,「旅費」329,360円,「人件費・謝金」450,000円,「その他」145,084円と把握している。申請段階でも示した通り,「資料集」作成のためのデータ入力作業経費をアルバイト謝金から業者依頼に変更しているため,「人件費・謝金分」は「その他」費目において執行する。 年度前半期は,文献調査・実地踏査等にかかる「旅費」執行を優先し,後半期は「資料集」作成にかかる経費執行を優先した使用計画とする。
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