研究課題/領域番号 |
25370209
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長島 弘明 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (00138182)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 古状揃 / 往来物 / 歴史小説 |
研究実績の概要 |
研究の第2年次に当たる本年度は、資料の量が多いため、初年度に引き続き『古状揃』および「往来物」諸作の書誌学的調査を続行した。その結果、当初は版種が100を少し越えるかと考えていた『古状揃』の版種が、その予想の倍の200種を越えるほど多数の版種を有することが明らかになった。しかも同じ板木を使用したものでも、刊記等が相違して明らかに別の刷次であるものが多く、摺刷の回数は、多いものでは10回をゆうに越える本もあることを確認した。 『古状揃精注鈔』や『古状揃余師』をはじめとする江戸時代の注釈書を検討し、それらの注釈書が、当該書簡の歴史的な背景に関して、予想以上に多くの軍記や史書、野史の類に目を通し、解説の参考にしていることを確認した。併せて、語注にも同様に多くの書が参考にされていることも確認した。また、『古状揃』自体が初学の者に対して教科書的な意味合いを持つものであるので、その注釈書は一層初学者に丁寧な配慮がされていること、例えば、書簡原文の漢文体を書き下し文にすることはもちろん、その書き下しには、通例は省かれる置き字までもわざわざ示してあることなどを確認した。 「往来物」諸作を「語彙」「消息」「歴史」「地理」「産業」等に分別した中で、通常『古状揃』は「歴史」に区分されるが、『古状揃』諸本をある程度まで集めて、それぞれの内容について検討した結果、『古状揃』のうち上欄部分に国名や漢語、歳時等の用語集的なものがあるものは、「語彙」「地理」等の内容にもわたるものであること、むしろそういう『古状揃』は小百科事典の趣があることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『古状揃』の注釈書について考察することは、各書簡の典拠を探索する手がかりをそこから得ることを目的とすると同時に、各書簡についての江戸時代的な理解を知ることを目的とするものであったが、『古状揃』諸注釈書の精査により、歴史的資料も、現在の研究では無視されるような俗説を記したものまで視野に入っていること、また注釈の目的は単なる難解な言葉の語注ではなく、その言葉を中心としてより広い包括的な知識を与えようとしていることなど、江戸時代特有の注釈の姿勢を知ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
一つは、浮世草子、読本、合巻等のジャンルに含まれる歴史小説作品と、『古状揃』所収の各書簡を比較し、『古状揃』各書簡の文学性・虚構性の質について深く考察したい。また、初学の時に目にする『古状揃』が、歴史小説や歴史書の本格的な読書へのきっかけとなっているのではないかという仮説を、様々な面から検証し、そうであることを実証したい。 また、版本の『古状揃』だけでなく、それを手本として初学者に写された、写本の『古状揃』を調査・収集し、『古状揃』の享受の実態を解明し、どのような興味で、あるいはどのような用途で『古状揃』が写されたのか、具体的に明らかにしたい。
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