研究課題/領域番号 |
25370217
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
鈴木 広光 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70226546)
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研究分担者 |
磯部 敦 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (00611097)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 日本文学 / 分析書誌学 / 出版史 / 活字印刷 |
研究実績の概要 |
(1)研究代表者は、主に版面を構成する諸要素の定型化の解明に努めた。特に明治20年代半ばまでの活版および整版の出版物の版面における句読点、約物の使用状況と活字書体の標準化との関係について、現物および国立国会図書館近代デジタルライブラリーの画像を調査を行った。その結果、印刷書体が文体やジャンルなどの意味役割から切り離され、標準化することと入れ替わるように、句読点などの約物の使用が規則的になっていったことが明らかになった。さらにその事実の意味について考察を行い、テクストの分節し、その構造を可視化しようとするものであり、出版物の発信者側が情報伝達において意味論的統御を行おうとしたものであると解釈した。さらに、鈎括弧の調査も行い、そのメタ・レベルでの機能とテクストの同一性保持の問題について考察した。これらの考察については、研究代表者が2015年2月に公刊した著書『日本語活字印刷史』(名古屋大学出版会)の第三部第六章および小活に書き下ろしの論考として発表した。また2014年11月8日に二松学舎大学で開催されたシンポジウムにおいても「句読点の近代」と題して報告を行った。 ② 研究分担者は代表者とともに、出版流通と書物の形態の関係を探るため、明治19年に出版されると版権が無かったために、わずかな期間のうちに多数の翻刻本が各地で刊行された『二十三年未来記』の諸本を10点ほど一括購入した。そして、これまで入力した書誌データをもとにそれらをを相互比較し、その違いを記述し、出版流通に有意な特徴を抽出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
版面の構成要素が定型化していく過程を解明する課題については、既に調査を終え、著書の一部として発表することができたので、予定よりもかなり早い達成である。また研究分担者とともに推進している、同一テクストの諸版の収集及び記述とその出版史的意義の考察についても、順調に研究が進展している。ただし、近代デジタルライブラリ―の画像をもとに書誌を網羅的に記述し、データ・ベースを作成する作業はほとんど進展させることができなかった。予定していた研究補助者の雇い上げが、該当者の研究環境の変化などによって確保できず、入力作業を行えなかったことによる。
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今後の研究の推進方策 |
データ・ベース作成作業は、入力補助者の確保が相変わらず困難であるため、27年度の中心的な課題から外し、参照のためのデータ作成として位置付けることを予定している。27年度の中心的課題は、『二十三年未来記』諸版など複数のヴァージョンを有するタイトルの、パラ・テクスト的考察を行うため、分析書誌学的記述を詳細に進めることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、書誌データベース作成のための入力補助者を確保できず(当初予定していた二名の研究環境の変化のため)、研究補助の謝金を使用しなかったためである。1月まで作業できる人材を探すために予定金額を残しておいたが、叶えられず、次年度使用に回すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度もデータ・ベース入力の補助者を確保できそうにないため、次年度使用額分は研究補助の謝金ではなく、資料入手のための購入費(物品費)とコピー代(その他)にあてる計画である。
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