研究課題/領域番号 |
25370219
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
小林 明子(小島明子) 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (60279015)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 栄花物語 / 大鏡 / 今鏡 / 富岡本 / 梅沢本 / 歴史物語 / 藤原道長 / 藤原頼通 |
研究実績の概要 |
平成25年度の成果は、拙稿「『栄花物語』富岡本増補記事の検討―巻二十七~三十に着目して―」(『日本文学』63巻6号、平成26年6月)にまとめた。そこでは富岡本において他本との異同が顕著な四巻分に範囲を絞り、記事増補のみを抽出・分析した。増補されるのは道長・頼通関連の割合が高く、かつ道長の後継者として頼通が称揚される記載と道長・頼通が春宮(のちの後朱雀天皇)に入侍する禎子内親王を懇切に後見する記載が、富岡本ではより一層強調されるという叙述傾向を指摘した。 平成26年度は、上述の調査の過程で、『栄花物語』梅沢本・富岡本と『大鏡』『今鏡』における頼通・後三条・禎子の人物造型の相違を比較・検討することになったことからスタートし、それぞれの歴史物語の執筆意識の移相に関して得られた知見を「『今鏡』後三条紀の叙述意識」の論考とし、これは加藤静子・桜井宏徳編『王朝歴史物語史の構想と展望』(新典社、平成27年3月、339-356頁)に所収された。 また、前年度にはなしえていない富岡本巻一~二十六の詳細な調査に着手し、その改修の方向性を検討した結果、まずは歴史物語らしい年次考証の重視、依拠資料の尊重という叙述における基本な姿勢を明らかにし得た。さらに重要なのは、独自の物語世界を作るという側面で、道長子女の網羅的列挙をなす増補、逆に道長子女を際立たせるべくなされた部外者の描写の削除、登場人物の行動の歪曲などが浮かび上がった点である。『栄花物語』正編に飽き足らない享受者が、続編第一部を付加する動きは周知のことであるが、それとはまったく別の場において、富岡本は正編の改修によって自身の歴史観に叶った正編を作ろうとしたとみなせる。以上については、「『栄花物語』富岡本の改修方針」として論文にまとめ、学術雑誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、平成25年度に引き続き「異本系本文」である富岡本の属性の解明が課題の一つであり、この点については富岡本三十巻全体を調査して個々の記事を検討することで、その改修の方向性を明らかにすることができたと思われることによる。 今年度の今一つの課題である「異本系本文」と「古本系本文」「流布本系」本文との関係の解明は、上述の調査の過程でかなり具体像が見えてきている。ただし、それをさらに精緻に分析するという段階にはまだ達していないが、これは平成27年度に継続することとする。
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今後の研究の推進方策 |
富岡本の改修が、いかなる者の手でなされたのか、またその文化的あるいは政治的な背景は何か、という問題については未だ手がかりを得られていない。同じ歴史物語である『大鏡』にも生じている異本系本文の研究、あるいは作り物語には見られる大きな異本群の研究などの成果を援用し、かつ日本史・思想史の研究動向にも見配りをしつつ、調査を進めてゆく。
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