本研究は、新古今歌人慈円の和歌作品検証のために、その自省期における「法楽歌」を中心に多角的な分析考究するものである。家集『拾玉集』所収の諸社法楽百首群に付された序・跋はその法楽意図が端的に表出しているので、彼の法楽歌の背景をなす思想体系究明の糸口となるものであった。 現在の慈円研究は仏教・神道、さらに日本思想史の研究者が積極的に言及しているので、これらの成果を視野に入れながら、家集『拾玉集』内の諸社法楽百首群の序・跋の分析だけに留まらず、寺社縁起に関係した彼の思想体系全体への視点を加味しなくてはならない。 平成28年度には、前年度の国文学研究資料館蔵「神宮典略」内『神宮正権祢宜和歌』、神宮文庫蔵『二十一代集抜萃 伊勢神宮作者』双方の翻刻を承け、所収和歌の関係性について分析考究することが出来た。これに拠り、『御裳濯和歌集』の伝える「二見浦百首」作者の解明に繋がることになった。 上記の天理図書館蔵『御裳濯和歌集』本文の校注・口語訳(新たに追加)、国文学研究資料館蔵『神宮正権祢宜和歌』翻刻、神宮文庫蔵『二十一代集抜萃』翻刻を承けて、①御裳濯和歌集、②「二見浦百首拾遺」及び「御裳濯和歌集」との関係、③「神宮正権祢宜和歌」、④「二十一代集抜萃」及び「神宮正権祢宜和歌」との関係、⑤「二見浦百首」作者検証 から成る解説を加えて『御裳濯和歌集の研究』を刊行すべく、努めた。
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