研究課題/領域番号 |
25370238
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
平澤 信一 明星大学, 教育学部, 教授 (20270316)
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研究分担者 |
岡村 民夫 法政大学, 国際文化学部, 教授 (00297988)
栗原 敦 実践女子大学, 文学部, 教授 (40086822)
杉浦 静 大妻女子大学, 文学部, 教授 (50140108)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 宮沢賢治 / 風の又三郎 / 草稿研究 / 日本文学 / 児童文学 |
研究概要 |
宮沢賢治イーハトーブ館で、『風の又三郎』16枚、『風野又三郎』67枚、『種山ケ原』26枚、『さいかち淵』20枚の表面の草稿データをプリントアウトし、各研究分担者に送付した。それぞれの確認・判読作業の結果、表裏両面に書き込みのある草稿の撮影・保存状態を確認する必要が生じ、研究代表者が宮沢賢治イーハトーブ館に出向いて、これまで未確認だった保存状態を一枚一枚、確かめた。手元に所持しているモノクロコピーと比べて、インクの染みが広がっているものや撮影時の光の当て方によって、モノクロコピーよりも却って見にくくなっているデータがあることが判明した。花巻市による草稿のCD-ROMデータ化の後、初の一覧作業を終え、カラーでデータ化した後も、かつてのモノクロマイクロフィルムを保存しておいた方が良いと分かった。それぞれの研究者ごとに、更なる確認作業を進めている。 研究代表者の平澤は、草稿確認作業の一環として、本文読解を深め、2013年6月23日、國學院大學国文学会春季大会において、「『風の又三郎』ふたたび-流布本文と《耕一/耕介》の問題-」と題する研究発表を行った。これは先駆稿『風野又三郎』九月一日に登場する《耕介》が、二日以降に登場する《耕一》と同一人物であることを、草稿上で確認し、《耕介》は『風の又三郎』への推敲過程で登場するものと考え、『風野又三郎』の本文としては、《耕一》に戻した方が、作品上のキャラクターが一貫することを主張したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書どおりの複写稿入手とその検討を進めつつ、昨年度の『風の又三郎』草稿表面データに引き続いて、本年度は裏面データの複写稿を検討してゆく。これらの一部の草稿の保存状態は、必ずしも当初、予想したような完全なものではなかったが、それぞれの確認を終えて、『ポランの広場』裏8枚、『種山ケ原』の裏18枚、『風野又三郎』裏1枚、『青木大学士の野宿』裏4枚、『山男の四月』裏3枚、『若い木霊』裏1枚、その他メモ1枚について新たに検討しているところである。応募時の予想よりも手間のかかる作業は増えたが、そもそも、どのようにして、賢治の書き遺したものは、断簡零墨まで記録されるような『校本宮澤賢治全集』や最新の『新校本宮澤賢治全集』という形式を採ったのかという、宮沢賢治文学の本質的な問題にまで、検討の射程は伸び始めた。当たり前のことかもしれないが、賢治の場合、草稿研究史は、全集史でもあるということ。ここから未来の『風の又三郎』本文に向けての新しい宮沢賢治研究史が始まると言ってよい。流布本の在り方も、そこから自ずと見直されてくるはずだ。理想的な本文は、たちまち現れたりは、しない。というより、時代時代の価値観を反映して、その時々の精神の表れとして、本文研究は、あるようだ。草稿を、誤字も含めて(作字して)、ありのままを活字化する『新校本宮澤賢治全集』は、no.1ではなくonly.1を尊ぶことを良しとする今の日本のあり方を示しているだろう。それならば、研究ではなく、人々に広く読まれることを目的とした現在の流布本は、どうあるべきか。当初の予想より問題は大きくなっているが、それは私たちの研究が進んだことの表れでもある。そうした意味で、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
表裏両面の草稿データがそろった時点で、『風の又三郎』『風野又三郎』『種山ケ原』『さいかち淵』の新本文の作成を開始する。物質としての草稿からテクストとしての草稿へと思考を広げ、内容面での検討を進めたい。特に、これまであまり注目されてこなかった先駆形『風野又三郎』については、九月一日から十日までの各日ごとに内容を整理し、フルネームで登場する《照井耕一》くんのキャラクターなどを際立たせてみたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
草稿の複写に、予想以上に時間がかかったこと。本年度行った草稿表面の複写に続き、裏面の複写を進めるため。 複写料金および研究代表者、研究分担者による宮沢賢治イーハトーブ館での実地調査の費用。
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