研究課題/領域番号 |
25370239
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高橋 敏夫 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20236300)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 大衆文学 / 歴史小説 / 時代小説 / 司馬遼太郎 / 司馬史観 / 吉村昭 / 戦史小説 |
研究実績の概要 |
本年度の研究の目的は、1960年代から1970年代に至る「歴史小説」ブームの内実と意義を考察することにある。①ブームの全体を概観する。②そのなかで重要な役割をはたす司馬遼太郎と吉村昭をとりあげ、主要作品を考察する。③司馬遼太郎について――戦後の歴史小説ブームをひっぱったのは、いうまでもなく司馬である。長らく純文学の下方に貶められてきた歴史小説を、司馬は手にとるのが誇らしい文学へとおしあげた。秩序のなかの競争的動乱を生きる大人=勤め人のための文学として。それは、司馬の活躍が高度成長期および明治百周年にかさなったとき、戦後著しく衰退していたナショナリズムの培養器となる。学徒出陣し栃木県で敗戦を迎えた二十二歳の司馬は、愚昧な指揮官を前に「日本人とは何か」という疑問をいだく。この問いとのたえまない応答は後に、西洋列強と対峙して近代化、国家形成を遂行した日本が、日露戦争以後進路を誤り愚劣な大戦争にたどりつくとの独特な司馬史観をうみだす。初期の代表作『竜馬がゆく』、秋山好古、真之兄弟と同郷の正岡子規がそれぞれの道を選び、日清、日露戦争にかかわる『坂の上の雲』、維新から西南戦争までの西郷隆盛を描出した『翔ぶが如く』などを個別に考察する。④吉村昭について――吉村昭(一九二七~二〇〇六)には「歴史」とは軽重のない細部の連鎖だという見方が確固としてあった。これは吉村が、細部一つ一つにこだわりぬく純文学的修業を長くつづけたことにかかわるだろう。執拗な資料探索と綿密な取材に基づき書かれる、『戦艦武蔵』、『陸奥沈没といった卓抜な戦史小説、『間宮林蔵』、『生麦事件』、『桜田門外ノ変』、『天狗騒乱』、『大黒屋光大夫』、『彰義隊』などを個別に考察する。 同時に、現在続々刊行される「歴史小説」を考察、かつての「歴史小説」との共通性と差異をできるだけ明らかにすることに努めた。これもまた本研究の一環である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦後「歴史小説」ブームを司馬遼太郎と吉村昭という全く作風の異なる作家の諸作品を通して考察することが今年度の研究目的であった。主要作品の検討はすんだが、全作品を検討するところまでは至らなかった。次年度において引き続き収集と分析をしたい。 また、二人の作家以外にも多くの歴史小説作家が同時期にあらわれている。この作家たちの検討も続けたい。 また、昨年度の研究から浮かび上がった「歴史・時代小説」における「なかま」の形成というテーマについては、司馬遼太郎にはそれがはっきりとあらわれているが、吉村昭ではわずかな例にとどまる。この理由についても、考察を持続させたい。
|
今後の研究の推進方策 |
2015年度の研究目的は、一昨年度および昨年度の研究をふまえつつ、1970年代から1980年代までの「悪党ブーム」の内実と意義を考察することにある。実際の歴史的事実に基づきつつも、その背後の闇を凝視した二人の作家、池波正太郎と隆慶一郎の主要作を検討する。「歴史」に密着した司馬遼太郎、吉村昭と、「歴史」の奥をのぞきこんだ二人の作家とのちがいについても考えたい。こうして前年度の研究成果は次の研究に引き継がれていく。この継続性を大切にしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2014年度は一年間のサバティカルのため、海外での研究や発表に思わぬ時間を取られて、本研究において直接、間接的に必要な文献を収集する十分な時間を得られなかったのが理由である。研究は引き継がれるので、次年度において収集を継続するほかが良いと判断した。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度は、「悪党小説」ブームの考察だが、それに関連する資料の収集を、昨年度の「歴史小説」ブームの考察をめぐる資料収集と同時に進めたい。
|