研究課題/領域番号 |
25370240
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
榊原 理智 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (00313825)
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研究分担者 |
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
キャンベル ロバート 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50210844)
塩野 加織 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (80647280)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / 日本近代文学 / 英語訳 / 1950年代60年代 / ノーベル文学賞 |
研究概要 |
本研究では、戦後から1960年代にかけて、日本の近代文学が世界の主要な文学となっていく過程を、英語への翻訳の生産・出版・流通に焦点を宛てながら歴史的に研究することを目的としていた。特に、1968年の川端康成のノーベル文学賞受賞に至る査読過程に関する新資料の収集によって、日本文学の英語訳に関する研究の新領域を切り拓くことを主眼としていた。 本研究の初年度である今年度は、基礎資料の発掘・収集・整理を重点的に行う年と位置づけ、多くの収穫があった。まず、研究代表者の榊原理智が統括し、研究分担者のロバート・キャンベル、十重田裕一、塩野加織との協議のもとに、研究協力者である読売新聞東京本社の待田晋哉文化部記者のスウェーデン・アカデミーのノーベル図書館訪問を企画・実施した。情報開示請求によって得られた新事実として重要なものは次の二点である。①選考に先立つ1963年の時点においては、三島由紀夫が日本人候補者の中でもっとも受賞の可能性があったこと②その具体的な選考の過程のなかに、三島由紀夫『宴のあと』を翻訳したドナルド・キーンの英語訳に関する記述があり、英語訳が選考過程に重大な影響を与えていること。これらは、待田記者の署名記事として読売新聞に発表されたほか、その学術的考察として、十重田が「ノーベル文学賞60年代の選考――三島、日本人候補の最有力」(『読売新聞』2014年1月28日朝刊12版)にまとめた。 他に、川端康成の作家研究の一部としてキャンベルと十重田が座談会に出席し、その成果が「《座談会》浅草を語る」『文学』第14巻・第4号(岩波書店、2013年7月)として出版され、十重田の論文「「浅草紅団」の新聞・挿絵・映画――川端康成の連載小説の方法――」『文学』第14巻・第4号(岩波書店、2013年7月)にも結実している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時には、平成25年度を基礎資料の発掘・収集を重点的にすすめる時期と位置づけ、以下の二点を調査の中心としていた。①1950年代60年代において英語で翻訳出版された作品・作家叢書等についての資料を収集調査し、整理とデータ化を行うこと②当該時期に翻訳出版に携わった関係者らに聞き取り調査を行うこと。そして、次年度である26年度の計画としてノーベル文学賞の選考過程の研究を行うとしていた。 しかし、ノーベル賞選考資料は50年後に公開される決まりであることから、この度1958年から62年の資料を入手できたため、次年度の中心的段階であるノーベル賞選考過程と、日本人作家候補の研究が計画より先行する形となった。その結果、25年度の目標であった②の聞き取り調査こそまだ準備段階ではあるものの、新事実の判明によって聞き取り調査を充実させていく新たな道筋が明らかになり、研究は大きく前進したと考える。 また、まだ実績としては論文化されていないが、①の資料収集とデータ整理によって、著名な翻訳者であるドナルド・キーンやエドワード・サイデンステッカー以外にも、日本国内での日本文学英語訳の動きが活発であったことが確認されており、それらが対象とする読者や販売のルート、編集者の意図の研究などが研究代表者の榊原の統括のもとに進んでいる。その成果は、次年度にタイのチュラロンコン大学で開催される国際シンポジウムで発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる26年度は、前年度に引き続き、スウェーデン・アカデミーに対する情報開示請求を再び行い、さらなるノーベル賞選考過程の新資料の発掘に勤めるほか、1950年代60年代の日本近代文学の英語訳ブーム支えた出版社・翻訳者・作家へのインタビューの準備を積極的に進めたい。それによって、翻訳対象となった文学作品についてa.誰の/b.どのような意図で/c.いかなる作品が取捨選択されたのか/d.どのような編集方法や販売戦略があったのか、等の検証を具体的に行い、川端単独の観点では捉えることのできない、日本近代文学の世界的流通の内実を明らかにする予定である。調査体制としては、研究代表者の榊原が全体統括をつとめ、事前の調査交渉・インタビュー・文字起こし・調査結果の分析までの一連のプロセスを、研究分担者であるキャンベル・十重田・塩野を加えた4名で適宜分担連携する。この調査の成果は、研究代表者の榊原理智がタイ国に本研究国際シンポジウム(チュラローンコーン大学文学部東洋言語学科主催、2014年8月26日開催予定)で発表することが決定している。 そして、最終年度には、当該研究者全員によるスウェーデン・アカデミー訪問とノーベル賞選考関係者への直接インタビューの他、国内外の研究者を招き、日本近代文学の英語訳およびノーベル賞選考過程、日本近代文学の世界文学への寄与に関するワークショップを行い、研究代表者・研究分担者それぞれの論文を含めたブックレットの発行に向けて準備を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請時には、平成25年度を基礎資料の発掘・収集を重点的にすすめる時期と位置づけ、当該時期に翻訳出版に携わった関係者らに聞き取り調査を行い、そして、次年度である26年度の計画としてノーベル文学賞の選考過程の研究を行うとしていた。しかし次年度に計画していたノーベル賞選考過程と、日本人作家候補の研究が計画より先行する形となった。その結果、スウェーデン・アカデミーへの予備調査の海外出張が入った代わりに、25年度の目標であった聞き取り調査に関連する諸経費の支出が若干少なくなることとなった。 前年度に引き続き、スウェーデン・アカデミーへの予備調査を行い、さらなるノーベル賞選考過程の新資料の発掘に勤めるほか、前年度の調査で明らかになった複数のノーベル賞候補作家の資料・文献などを収集する。また、1950年代60年代の日本近代文学の英語訳ブーム支えた出版社・翻訳者・作家へのインタビューの準備を積極的に進めたいと考えており、国内でのインタビューのための事前調査用資料、実際のインタビュー・文字起こしのための機器および旅費に使用する。前年度の研究成果を発表するための海外シンポジウム参加のための出張も行う。
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