本課題については、当初は平成28年度に終了する予定であったが、同年度末近くになって、長らく所在不明となっていた『伊勢物語』非定家本中の重要伝本の一、いわゆる武者小路本の現存先が明らかとなり、平成29年度に実地調査できるという確約を頂戴できた。一方、これまでの調査の過程で、大量の未詳仮名散文の古筆切の図版を収集してきたが、特にここ数年のweb環境の充実化の恩恵を蒙って、web検索によって少なくない数、その記載本文の作品名を特定できるようになってきた。そうした成果を本課題に盛り込めればということで、平成29年度までの期間延長を申請し、承認された。 如上の経緯を踏まえつつ、最終年度の実績を示すと、まず上記の『伊勢物語』武者小路本の実地調査とデジタル撮影を実施し得たことを、やはり第一に挙げねばならない。これまで全文翻刻だけはありつつも、書誌情報や、当該本そのものの図版については、ごく一部分しか紹介されていなかった。しかし今回、ご所蔵・ご関係の方々のご快諾をいただき、詳細な書誌情報のみならず、その全丁の高精細デジタル画像を入手することまでできた。現在その画像に基づき、他伝本との比較研究などを継続的に実施している。 また未詳仮名散文の古筆切の出典調査も相当進み、予想以上の点数、作品名を明らかにすることができた。それらの中からは、水鏡や西行物語絵詞など、珍しいものが見出されたため、より深く考察し、一部については論文化した。 加えて天理大学附属天理図書館における原本調査も行った。『古今集』『新撰万葉集』や未詳詩集断簡に加え、いわゆる「年代記」に属する資料をも調査対象とし、本課題後の調査研究の方向性にも関わってくる、いくつもの知見を得てきた。 その他、本年度までの調査研究の結果を踏まえて、6点の論文を公表するなど、成果の社会還元にも努めた。
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