研究課題/領域番号 |
25370248
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
中原 香苗 神戸学院大学, 経営学部, 准教授 (80469270)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 楽書 / 春日楽書 / 楽所補任 / 掌中要録 / 音楽講式 |
研究概要 |
1 狛氏周辺における楽書の研究 (1)楽書断簡の研究 春日大社に寄託されている楽書断簡二葉についての紹介と検討を行った。本断簡は、同大社蔵の鎌倉期成立の楽書群「春日楽書」のうち、『楽所補任』の上巻末尾、『舞楽手記』の冒頭であることが判明した。両断簡の出現により、『楽所補任』『舞楽手記』の不明部分が明らかになったことは、「春日楽書」を研究するうえで重要なことといえる。 (2)『掌中要録』の研究 狛海王丸(『続教訓抄』の著者狛朝葛の幼名)写の『掌中要録』は、南都狛氏に継承されていた左方の舞楽の舞譜集成であるが、伝本や成立事情などについては明らかではない。十数本を数える伝本があるが、『続群書類従』所収本系統の本文は「流布本系」とされる。その系統の伝本のうち、元文五年(一七四〇)の識語をもつ紅葉山文庫旧蔵の『掌中要録』書写の経緯について検討した。すなわち、該本は江戸城紅葉山文庫にはすでに『掌中要録』が存在したものの、欠巻などの不備のため、別に写本を探索し、新たに作成されたものであることが明らかになった。 2 『音楽講式』断簡の紹介と検討 本講式は鎌倉時代に成立したもので、音楽と法会・文学との関わりをうかがわせる興味深い資料である。これまで鎌倉末頃写の高野山大学図書館寄託金剛三昧院蔵本、江戸末期写『魚山叢書』所収本が知られるのみであったが、鎌倉時代末写と推測される架蔵の断簡が存在する。本断簡を紹介するとともに他伝本との比較を行い、これが金剛三昧院本と同系統であること、傍訓等がない等の両本とは異なる特徴をもつことを指摘した。 3 関連する典籍の研究 研究途上に見出された典籍について、本年度は、堺長谷寺蔵の縁起二点『堺長谷寺縁起』『(大和)長谷寺縁起』についての検討を行った。 4 『続教訓抄』『体源抄』伝本の分析と整理 これまでに収集した『続教訓抄』『体源抄』の伝本の本文検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
芸能に関わる伝承を考えるうえで重要な、南都の楽人狛氏周辺で成立した楽書については、『掌中要録』ならびに春日楽書断簡二葉について研究を行い、『続教訓抄』『体源抄』の伝本研究においても、おおむね進展を見た。また、音楽に関わる文献として『音楽講式』断簡の紹介も行った。 加えて関連する典籍の研究として、大阪府堺市の堺長谷寺所蔵『長谷寺縁起』『(大和)長谷寺縁起』二点の検討を行ったが、本年度は楽書に関わる研究を中心に進めたため、両書の本文翻刻、解題等を含んだ研究報告書の発行には至らなかった点、次年度以降に努力すべきと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も、狛氏周辺での楽書の生成と芸道の伝承との関係について考察を加える。 また、中世文化を考えるうえで重要な楽書(『続教訓抄』『体源抄』)の基礎研究を行う。 さらに、堺長谷寺所蔵『長谷寺縁起』『(大和)長谷寺縁起』についての検討を進め、報告書の刊行をめざす。加えて、楽書の調査・収集のため、全国の寺社・図書館・文庫等に赴くが、そこで見出した文献についての調査も進めていく。 なお、『続教訓抄』『体源抄』の本文検討にあたっては、基礎となる本文データの入力・整理等に労力を要する。そのため、大学院生などに協力を求める計画であったが、そうした人物に協力を要請することが難しい場合も想定される。そのため、計画通りに研究を遂行するには、そうした作業の外部委託を検討すべきかと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
1 本年度に行った研究のうち、『長谷寺縁起』二点についての検討を進め、翻刻と研究をおさめた報告書を刊行する予定であった。しかしながら、研究は進展したものの、協力を得ている研究者との連携不足もあって報告書を刊行するまでには至らなかったため。 2 学生アルバイトによって『続教訓抄』『体源抄』の本文データの入力、データ整理などの研究補助を予定していたが、依頼を予定していた学生の状況により、入力補助業務の依頼が難しくなったため。 狛氏周辺における楽書生成の研究を継続する。具体的には「春日楽書」、『舞楽府合抄』、狛朝葛写『掌中要録』、狛正葛編『竹舞眼集』(鎌倉期成立)、『続教訓抄』(狛朝葛撰、鎌倉時代末期成立)、『新撰要記抄』『尋問鈔』(南北朝期成立)、『打物勘要抄』『竹舞眼集』(室町時代成立)などについて検討する。また、『続教訓抄』『体源抄』の伝本研究を継続する。 堺長谷寺蔵『長谷寺縁起』『(大和)長谷寺縁起』に関する研究報告書の刊行をめざす。
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