研究課題
1 狛氏周辺における楽書の研究 狛海王丸(『続教訓抄』の著者狛朝葛の幼名)の書写とされる『掌中要録』の研究をおこない、成果を発表した。具体的には、古本系とされる「春日楽書」中の『掌中要録』(鎌倉時代写)と元文5年(1740)書写の国立公文書館蔵『掌中要録』の関係について考察を加えた。その結果、後者は江戸城紅葉山文庫中に収蔵されていた「春日楽書」の写本である「楽書」中の『掌中要録』の本文に問題があるために新たに書写されたものであることが判明した。これにより、徳川幕府の楽書の収集、書写、収蔵の一端が明らかになった。2 金剛寺所蔵音楽資料についての研究 大阪府河内長野市の天野山金剛寺に伝わる聖教のうち、音楽資料についての研究発表をおこなった。金剛寺聖教のうちの多くを書写した禅恵(1484-1364)に着目し、音楽という方面から、その交流圏について考察した。禅恵の書写した『諸打物譜』を検討することで、これまでは知られていなかった、金剛寺と住吉社などとの関わりを見出すことができた。3 関連する典籍の研究 研究途上の調査の過程で見出された大阪府堺市の長谷寺蔵『泉州堺長谷寺縁起』『(大和)長谷寺縁起』の本文翻刻と内容の検討をおこなった。両書ともに開眼供養の法会場面が描かれており、当時の法会と音楽について考えるうえでも有益と思われる。前者は、全文紹介がなされていないものであり、後者も「長谷寺縁起」伝本中でも比較的書写の古いものであるため、両者の全文を紹介することは、有意義なことといえる。4 『続教訓抄』と『体源抄』の基礎研究 四大楽書とされながら基礎研究が進んでいない『続教訓抄』と『体源抄』の伝本収集を継続し、その本文検討と分析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
おおむね当初の計画通り研究を進めることができている。狛氏周辺の楽書の研究としては、『掌中要録』についての研究成果を発表し、音楽資料については、大阪府河内長野市の天野山金剛寺蔵資料について研究発表をおこなった。大阪府堺市の長谷寺所蔵資料『泉州堺長谷寺縁起』『(大和)長谷寺縁起』などの資料の翻刻を終了した。これらの資料は、楽書をあらわす楽人が参加して行われる法会場面が描かれていることから、本研究に有益なものと思われる。成果の公表準備のための再調査等も進めた。『続教訓抄』『體源鈔』については、本文収集を継続するとともに、いくつかの伝本の翻刻を終了している。
狛氏周辺の楽書の研究を継続する。今年度研究成果を公表した『掌中要録』のほか、『舞楽府合抄』『竹舞眼集』などの楽書についても検討をおこなう。翻刻を終了した大阪府堺市の長谷寺に所蔵される『泉州堺長谷寺縁起』『(大和)長谷寺縁起』についてさらなる研究を進め、成果の公表にむけての準備を進める。加えて、『続教訓抄』『体源抄』の伝本研究を継続する。本年度は特に『続教訓抄』を中心に検討を進めたい。検討の過程で再調査などが必要と判断された場合には、調査のための出張等もおこなう。
大阪府堺市の長谷寺所蔵資料について翻刻をおこない、内容の検討を進めていたところ、成果の公表にあたっては、カラー図版によって提供することが適切であろうとの判断に至った。そのため、今年度の予算を一部繰り越すこととした。
本年度は、堺長谷寺蔵『泉州堺長谷寺縁起』『(大和)長谷寺縁起』のカラー図版を掲載した報告書を刊行する予定である。前年度予算からの繰り越し分は、この報告書の刊行にあてる。
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