本研究は日本統治下の上海およびその周辺地域で展開した日本語文学の実態を究明すべく、その基礎資料の整備及び現地邦人文学者・文学団体の動向調査を試みることを目標としたものである。研究最終年度の平成27年度は、前年度までと同様、(1)資料の調査収集を行うと同時に、(2)今後の研究的展開を見据えた新たな海外調査先の開拓、(3)研究成果の報告発信に力を入れた。 (1)においては『長江文学』創刊号などの新出資料を複数見出し、現地邦人文学団体の成立過程を検討する重要な手がかりを得た。また昨年度までの調査で活発な文化活動があったことが確認された武漢の租界関連資料を入手し、今後の研究的発展を見据えた資料整備を行うことができた。 (2)については、調査先として有望であった武漢での図書調査を実施。また今後の展開を見据え、台湾での外地版に関する所蔵調査を行い、一定の成果を得た。 (3)ではまず学会向けの研究成果発信として、日本上海史研究会等との共催で、国際シンポジウム「戦時上海のメディア―文化的ポリティクスの視座から」を開催。運営担当・会場校として企画を実質的に推進するとともに、自身も「上海漫画家クラブとその周辺―「大陸新報」掲載記事を手掛かりに」と題する報告を行った。なお本企画の成果は2016年秋に同名の書物として刊行され、同発表も論文の形で学会に発信することが決まっている。また一方市民向けの活動としても、奈良大学図書館にて展観「海の彼方の日本語文学―池田克己とその時代」を開催し、これまで収集した資料と研究成果を広く一般に公開した。ちなみに同展観とその意義については新聞各紙でも取り上げられ、それに応じた現地作家の関係者やその遺族にからの情報提供が相次ぎ、今後の研究的手がかりを得ることにもつながった。 以上の試みによって、最終年度は研究の完成および今後の発展へつながる成果を得ることができた。
|