今年度は、ヒュームのリベラルな政治思想が18世紀後半のイギリスでどのように受け継がれ展開したのかという問題を解明するために、エドマンド・バークの『フランス革命の省察』を研究対象に取り上げた。18世紀イギリスの政治思想の特徴は、想像力と趣味を重視する「女性化」した政治学である。ヒュームやアダム・スミスに代表される18世紀イギリスの道徳哲学者たちは、封建主義的な道徳や神学的理想を規範としない、自由な個人によるリベラルな市民社会の理想を探求した。そうしたリベラルな社会においては、法の強制力よりもむしろ、趣味や礼儀作法といった柔軟な統治の可能性が探求されたのである。ホウィッグの大物政治家であったエドマンド・バークもまた、近代的なリベラリズムの理想を追求した政治思想化でもあった。彼はまた『崇高と美の起源』という重要な美学書も著したことで有名である。しかし、18世紀末にフランスで起こった革命によって、リベラルな市民社会の理想を再検討する必要性が生まれた。バークはアメリカ独立を支持したリベラルな政治家であるが、フランス革命を徹底的に批判した。バークのフランス革命論の中には、個人を主体とする美学的政治学から国家や共同体を基盤とした保守主義的政治学への転換が見られる。彼の政治学は想像力や趣味を基盤とする点ではヒュームやアダム・スミスと同様であるが、彼はそうした趣味や感受性の基盤を、個人という主体から国家や共同体へと切り替えるような政治学をつくり出したのである。それゆえ、彼は政治的保守主義の創始者と言われている。本研究は、『フランス革命の省察』で展開された保守主義的な言説を修辞的に分析することで、彼の政治思想の深層で機能している美学的な要素を解明した。
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