研究課題/領域番号 |
25370265
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
小泉 由美子 茨城大学, 人文学部, 教授 (60178556)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エミリ・ディキンスン / 宗教詩 / 聖書の書き替え / 南北戦争 / 隠喩 / 韻律 |
研究実績の概要 |
1.研究論文1本。 エミリ・ディキンスンの恋愛詩として解釈されてきたF325を、歴史的文脈の中で再読すると、宗教詩としても読解できることを証明した。南北戦争の最中、宗教的大義名分を掲げ戦った19世紀アマーストの会衆派共同体に対し、敢えて宗教用語を駆使し恋愛詩を書いた詩人の政治的意図をそこ読んだ。南北戦争が象徴する苦しみと、それを天上の喜びに昇華しようとするピューリタニズムの公式、南北戦争を「聖戦」と捉える当時の風潮に対し、詩人は異議を唱えた。戦時中恋愛詩を書いた点に注目し、ディキンスンの政治的意図を読み取った。 2.口頭発表3本。日本エミリィ・ディキンスン学会(首都圏)、(2014/07/12; 2014/11/08; 2015/03/07)、早稲田大学 (1) F325精読。南北戦争と宗教の関連を指摘し、従来恋愛詩として考えられていた作品を、宗教詩としても読める可能性を示した。 (2) Faith Barrett、To Fight Aloud Is Very Brave (U of MS P, 2011)の議論を参照し、L255, F545, F465を南北戦争と宗教という、二つの観点から再読する。南北戦争の激戦地を暗示する作品の背後に南北戦争は「聖戦」か否かの宗教的問いが隠されていることを指摘した。 (3) F320再読。他に類を見ない韻律と、同じ行に矛盾する隠喩を使うという特異性を分析することにより、F320を宗教詩として読み説いた。ディキンスンが伝統的韻律(common meter)を自在に編曲し、かつ同じ行に矛盾する隠喩を並置し詩作した事実に、当時の会衆派の教義に対する詩人の姿勢が顕著に表れていることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.詩人の生地アマーストにあるJones Libraryにて、19世紀会衆派の宗教関連の文献を読み続ける。当時の宗教関連書の記載が具体的詩分析にどの様に関連することができるかは今後の課題である。 2.詩形と意味の対応という視点で3本研究発表と1本研究論文を出版した。伝統的韻律を自在に変奏しながら、固有の主張をしたという点はある程度証明できた。次の課題は隠喩使用の独自性と内容の関連を検証したい。認知言語学の枠組みを使う予定である。 3.Jones Libraryでのリサーチを経て、アマーストにおける19世紀会衆派の考えが詩に反映されている点を具体的に確認でき、1本論文を書いた。 4.19世紀アマーストの会衆派に関する文献と南北戦争に関する文献を1部読解し、詩分析の論文に引用することはできたが、密接な相関関係を解明するには至っていない。しかし、研究目的に照らし、大きな問題とはならないと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1.ディキンスンの生地アマーストのJones Libraryにて、引き続き19世紀会衆派のアマーストのディキンスン家に直接関わる文献を読み続ける。 2.ピューリタン文学の研究者大西直樹教授に、個人的に助言をいただく。 3. ハーバード大学、Houghton Libraryにて、引き続きディキンスン家所蔵の宗教関連書籍を書き写す。 4. エミリィ・ディキンスン学会年次大会で研究発表をし、年3回開催の首都圏支部会においても3回研究発表する。 5. 19世紀アメリカ東海岸会衆派の教義と南北戦争の関連の書籍を読む。
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