研究課題/領域番号 |
25370265
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
小泉 由美子 茨城大学, 人文学部, 教授 (60178556)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エミリ・ディキンスン / 宗教詩 / 聖書の書き替え / 南北戦争 / 隠喩 |
研究実績の概要 |
1.共著書1冊。エミリ・ディキンスンの「斜陽」(F320) を特に構文の特殊性に注目し、信仰を吐露した「宗教詩」と解読した。生涯信仰告白をしなかった詩人ではあるが、実は敬虔なキリスト教徒の一面を持ち合わせていた事実を指摘した。 2.研究論文1本。ディキンスンの「斜陽」は従来詩人の内面世界を表象する隠喩で構成されていると考えられ、詩人の個人的体験とは無関係であると解釈されてきた。しかし、この作品の隠喩は観念の言葉ではなく、18歳の時,詩人がマウントホリオーク神学校で体験した「重圧」を表現したものであることを証明した。また、その時人間としてのイエス・キリストを再発見することにより、詩人は精神的に救われることとなり、キリスト教信仰に目覚めたのではないかとの可能性を指摘した。 3. 研究発表2本。(1)日本エミリィ・ディキンスン学会第30回大会。駒澤大学。ディキンスンの「斜陽」を冬のイメージを通し分析し、この作品がマウントホリオーク神学校時代の個人的体験に基づいていると解釈した。(2) EDIS(エミリ・ディキンスン国際会議)。パリ国際大学。ディキンスンの「斜陽」における隠喩の特殊性について、ロバート・フロストのメタファー論を援用し論じる。ディキンスンは個人的体験に基づいた、具象的イメージを駆使し、抽象的観念の言葉に陥る危険性を回避することができた。メタファーの効力を最大限発揮させることができた稀有な詩人でありえた秘策を解読し、彼女の言うところの「アメリカ的メタファー」とは何か解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.ディキンスンの生地アマーストにあるJones Libraryにて、19世紀当時読まれていた説教集を読解し、特にCharles Wadsworth牧師の説教集の隠喩分析、イエス・キリスト信仰、不死観等、当時の説教集の内容と詩人の詩作品の内容との共通点を発見した。 2.ディキンスンの隠喩の特殊性に注目し、2本研究発表論文と1本研究論文を書いた。ニューイングランド・シンボリズムとの関連を今後検討する。 3. Houghton LibraryとJones Libraryのリサーチを経て、19世紀アメリカ東海岸の宗教社会の有様をある程度理解できた。 4. 19世紀アマースト地域社会で読まれていたキリスト教関連資料と文献、南北戦争に関する文献を読み進めることができた。ディキンスンの詩分析にいかに密接に関わっているか証明することは現時点ではできていない。しかし、研究目的に照らし、大きな問題とはならないと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1. 19世紀アメリカ東海岸における宗教社会、南北戦争、ニューイングランド・シンボリズム、メタファー論に関する文献を渉猟する。 2. 2016年6月に開催される国際会議で研究発表し、可能な限り多くの研究者からコメントをもらい、論文を書き直し、Emily Dickinson Journalに投稿する。 3. 日本エミリィ・ディキンスン学会首都圏研究会にて、南北戦争中に書かれた宗教詩について、2回研究発表し、首都圏のディキンスン研究者からコメントをもらい、論文の書き直しを行う。 4. 著書の中心となるような研究論文を2本書く。
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次年度使用額が生じた理由 |
1020円が平成28年度使用となった。理由は、洋書価格変動のためである。
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次年度使用額の使用計画 |
1020円は資料記録用ノート等の購入に充て、速やかに執行予定である。
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