研究課題/領域番号 |
25370269
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 宜子 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (80302818)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 初期近代英文学 / テューダー朝 / 宗教改革 / 好古家 / 修道院解散 / ナショナル・アイデンティティ / ルネサンス / 歴史観 |
研究概要 |
本年度はジョン・リーランドが執筆したDe uiris illustribus(『著名人伝』)に焦点を絞り、彼がその中でローマン・ブリテンの時代から15世紀末に至るまでのイングランド固有の「雄弁」の伝統の構築に努めたことを明らかにするとともに、彼のもうひとつの著作、Itinerary of John Leland(『ジョン・リーランドの旅の記録』)を考察対象に含め、イングランド文芸史の確立をめざした彼の取り組みが、イングランドのナショナル・アイデンティティを地理的・空間的な視点から再定義しようとした試みと連動するものであったことを明らかにした。と同時に、両著作に共通する特徴として、カトリック信仰の「闇」に包まれた過去との断絶と新時代の到来に対する強烈な意識が表現される一方で、歴史の連続性に対する感慨(これは『旅行記』においては、とりわけイングランド各地の河川や橋をめぐる記述の中に看取される)や、伝統の保存と継承に重要な役割を演じた修道院や修道士たちへの複雑な共感(そうした共感は、修道院解散を含む一連の宗教改革へのリーランドの賛意と矛盾する可能性がある)を読み取ることができ、両者が緊張を孕みながら同じ著作の中に共存していることを確認した。また一時文献の詳細な読解とは別に、本年度は15~16世紀のイングランドにおける人文主義の発達とペトラルカの受容、および「ルネサンス」という概念の定義や解釈をめぐる歴史学の分野での近年の論争について幅広く二次文献の収集と調査を進め、リーランドが生きた時代をイングランドの歴史・文学史の中にどのように位置づけ、彼が表明した歴史観をいかなる理論的枠組みを用いて分析すべきかに関して方法論的な意味での再検討を行った。本年度の成果については、西洋中世学会の学会誌『西洋中世研究』第6号に寄稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リーランドが残した著作の読解と分析、およびそれらに関する二次文献の調査については予定どおりに今年度分の研究を完了した。この他に、リーランドが作成した修道院の蔵書目録を詳細に調査すべく、大英図書館やオクスフォード大学の図書館で文献調査を実施する予定であったが、諸般の事情により実現には至らなかった。この点に関しては、今後、現地調査をあらためて計画する、もしくはマイクロフィルムを取り寄せるなどの方法で研究を補う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度については、当初の計画どおり、リーランドが自作の中で高い評価を与えている15世紀の人文主義者たち(William Gray, John Free, John Gunthorpe)によるイタリア人文主義の受容の諸相、および15世紀イングランドにおける人文主義の発達にパトロンとして寄与し、重要な役割を演じたHumfrey, Duke of Gloucesterと John Tiptoftの功績についても詳細な検討を加える予定である。さらにはリーランド自身が生きたヘンリー八世治世のイタリア人文主義の受容をも考察対象とし、「中世ールネサンス」という二項対立の図式の中でともすれば断絶のみが強調される傾向にある二つの世紀の連続性について理解を深めたいと考えている。
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