研究実績の概要 |
本年度は、John LelandがDe uiris illustribusの中で紹介している15世紀の人文主義者たちの活動を振り返りながら、15世紀前半から16世紀半ばまでのイングランドにおけるイタリア人文主義の受容について考察した。考察の第一の中心となったのは、ヘンリ六世の叔父にあたるHumfrey, Duke of Gloucesterが文芸の後援者として果たした役割である。グロスター公はイタリアから文献学者や歴史家等、複数の知識人を招致して、イタリア人文主義のイングランドへの導入に寄与したが、Lelandがそうしたグロスター公の面影をヘンリ八世の姿に重ね、文芸の庇護者としての国王像の構築に努めていたことが本年度の調査で明らかになった。また、Lelandが写本の蒐集家として知られるグロスター公の活動と、修道院解散が目前に迫る中で散逸の危機に晒された修道院蔵書の蒐集・保存に尽力した自らの活動との共通点を意識していたことも確認できた。本年度の考察の第二の中心となったのは、グロスター公が活躍した時代にイタリアのフェラーラに渡り、Guarino da Veronaに師事して古典を学んだJohn Free, William Gray, John Gunthorpe, John Tiptoftらの功績である。Lelandは、これら15世紀の人文主義者をイングランド古来の「雄弁」の伝統の中に明確に位置づけ、John Colet, William Lily, Richard Paceといった16世紀の人文主義者へとつながる系譜の存在を強調した。Lelandの一連の著作(De uiris illustribus, Cygnea cantio, Instauratio bonarum literarum)は、15世紀にイングランドに移植されたイタリア人文主義の伝統が、宗教改革という歴史の断絶を越えて着実に16世紀に継承され、イングランド国内で開花した過程を読者に強く印象づけるものであるが、そうした著作の分析を通じて、英文学研究の枠組の中でとかく閑却されがちな傾向のあるイングランド国内のラテン語文学の伝統の重要性があらためて認識される結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度においては、Lelandの著作に見られる人文主義とナショナリズムの接近について考察を深め、そうした思想的傾向が、Lelandと親交のあったJohn Bale, William Thynne, Brian Tukeの文学的活動にも認められることを明らかにしつつ、そうした国民主義的な人文主義の思想がエリザベス朝の代表的な英詩人(Philip Sidney, Edmund Spenser, Gabriel Harvey, Samuel Daniel)に継承され、さらには18世紀に至って国民文学の伝統創出の試みにつながっていった過程を考察したうえで、本研究全体を総括したい。
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