研究概要 |
Nahum Tateによるシェイクスピアの翻案2作(The Ingratitude of A Commonwealth, The History of King Richard the Second)を対象として、それぞれ原作との差異を、nature, nation, voice/vote, femininity, sovereigntyといった主題のもとに検討した。その結果、natureに関しては、原作に前提とされていた豊穣の概念およびいわゆる「月下圏」の制約の事情等の意識と感覚が、翻案ではことごとく稀薄あるいは無視されていることが確認された。nationに関しては、17世紀の政治的大動乱の後を受けて、おのずと翻案では鮮明なイメージを結んでいることが分かった。原作できわめて重要な意義をもっていたvoice/voteの身体的機能は、翻案では薄れており、それはsovereigntyの概念の台頭と相まって、「政体」概念に根本的な質的変化が起こったことの反映であると解明された。femininityに関しては、特にCoriolanusに特徴的な女性人物の機能が翻案できわめて意義深い変容を遂げているこを確認し、その変容の意味について、近代論、世俗化論の古典的研究であるJurgen Habermasを参照しつつ、考察を進めた。さらにnature/femininityの関連では、cuckoldryの社会文化的変容の視点からも考察を行った。
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