本研究は現代アメリカ文学を代表する作家のひとりであるコーマック・マッカーシーの作品を中心に据え、アメリカ文学における「ボーダーランド(アメリカ-メキシコ国境地帯)」言説の複合的編成について考察するものである。 平成27年度においては、過去2年同様、関連文献・資料を広範に収集すると同時に、テキサス州立大学サンマーコス校のアルケク図書館所有のコレクション(The Southwestern Writers Collection and the Southwestern & Mexican Photography Collection)のアーカイヴ資料の文献学的分析を中心に研究を行った。ひとつの作品が完成するまでの草稿の諸段階をつぶさに観察することにより作者の創作の意図を浮き彫りにするという基本作業を経て、「戦争」「暴力」「崇高」といったマッカーシー作品における重要テーマにかかわる表象の複層性・多義性をあきらかにした。 とりわけ、『ブラッド・メリディアン(Blood Meridian)』『血と暴力の国(No Country for Old Men)』『ザ・ロード(The Road)』といった、アメリカ南西部を舞台にしながらキリスト教的「終末論(Apocalypse)」のモチーフを携える点で共通する3作品のテクスト分析をとおして、マッカーシー作品が紡ぎだす独自の倫理性について考察したが、その倫理性とはアメリカ南西部というトポスにおいて形成される独特のアメリカニズムの成立と結びついている。その意味で、マッカーシー作品は「ボーダーランド」文学・文化の新たな展開を予兆すると同時にその中心に据えることができるだろう。
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