研究課題/領域番号 |
25370273
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
大田 信良 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (90233139)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 英文学 / 映像文化 / ポリティカル・エコノミー / メディア文化 / ポピュラー・カルチャー / グローバリゼーション / 金融資本 / 知識人 |
研究実績の概要 |
1.「ヘリテージ映画」以降の英国映像文化と「英文学」に関しては、成蹊大学アジア太平洋研究センター主催ワークショップ「東アジア映画における「アメリカの影」――不/可視の文化ヘゲモニーを探る」において「オーストラリア版英語文学から再想像する冷戦期映画『戦場にかける橋』――「アメリカの影」あるいは「グローバリゼーションの終焉」をめぐる覚書」という口頭発表を行った。また、映画論集『映像の政治学―映画、表象、イデオロギー』(仮題 論創社2016年出版予定)に、「ノエル・カワードと再婚の喜劇としての『或る夜の出来事』――「長い二〇世紀」のなかの映像文化」を執筆・寄稿した。 2.「英文学」の制度化と変容する「英文学」については、日本英文学会第87回SYMPOSIA「グローバル都市ロンドンの表象――文学・社会・アーツ」において発表「“After Modernism”の政治学と映像文化のエコノミー――グローバル都市ロンドンの社会はいったいいつ存在したのか」を行った。また、成城大学グローカル研究会の報告書に、「サイード、「アメリカの優勢――公共空間の闘争」、ウィリアムズ「文化の社会学」――アソシエーションおよび階級分派の概念の歴史化のために」を執筆・寄稿した(近刊予定)。また、ウルフ協会論集『終わらないフェミニズム』(研究社2016年出版予定)のために、「ウルフ、ニューヨーク知識人、フェミニズム批評――もうひとつ別の「成長」物語?」を執筆・寄稿した。最後にロレンス協会論集に寄稿した「功利主義の伝統と「英文学」のなかのロレンス――幸福はどのように表象されるか」が出版された。 3. 福祉国家期における「英文学」の歴史的編制に関しては、F. R. LeavisのMass Civilisation and Minority Culture(1930)の出版をも含む「マイノリティ・パンフレット」6冊について、ケンブリッジ大学図書館において、文献調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.イシグロ論の出版は編集等の進捗が滞っているが、「ヘリテージ映画」の起源である1930年代の映像文化や冷戦期・ポスト占領期の日本を含む英米の映像文化の歴史的連関が、ノエル・カワードやデイヴィッド・リーンを中心に明らかになっており、20世紀から21世紀に至るパースペクティヴが大きく開かれ解明されつつあるといえる。 2.「英文学」の制度化については、ウルフ批評、および、ブルームズベリー・グループあるいはサイードに関する2つの論文により、1930年代からネオリベラリズムの始まりとされる1970年代までの歴史的編制の過程が、そのはっきりした輪郭において、明らかにされたといえる。 3.ケンブリッジ英文学の教育・研究制度を、物質的レヴェルで、可能にしたマイノリティ・プレスが、商業出版や大学出版局とは別に存在可能であったこと、そしてまた、エリオットの文学雑誌の場合とは異なり、メディア企業を背景にしたパトロンやオクスフォード大学やそのトランスアトランティックな知的生産・流通に密接にかかわるフェイバー&ファイバー社といった連携がなかったこと、等が明らかになり、これまでの出版の文化史やリトル・マガジン研究とは別のやり方で、単純に商業的でも学術的でもない出版やメディアの編制の構造・過程を視野に入れることが重要であることが、明らかにされたといえる。 以上の理由により、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
1.昨年口頭発表した「オーストラリア版英語文学から再想像する冷戦期映画『戦場にかける橋』――「アメリカの影」あるいは「グローバリゼーションの終焉」をめぐる覚書」を、論文として執筆し論集において出版する予定である。さらに、英国演劇と米国ハリウッド映画との関係を資本やそのコントロールあるいは公共政策との関係において、さらに探っていきたい。 2.ポスト占領期日本という歴史的コンテクストあるいは地政学的空間に、「英文学」のさまざまの諸相をいちどは置き直す作業を試みることにより、日本の英文学研究あるいはヴァージニア・ウルフ研究の意味を歴史的に再考するために、今年度ウルフ協会7月例会において、「ポスト占領期日本のなかの「英文学」――いま冷戦を考える意味」という口頭発表を行う。ポスト占領期を幕間とする、1930年代を中心とする戦間期と21世紀の現在にいたるポスト冷戦期の歴史的関係性を、「アメリカの世紀」あるいは「長い20世紀」という視座から再解釈することで、いま冷戦を考える意味を少しでも明確にすることを、最終的には、めざしたい。 3.今年度は、1930年代以降のオクスフォード大学とアメリカ東部・南部のトランスアトランティックな移動・交渉という「英文学」の編制の決定的な起源・契機を掘り起こすために、再度、エリオットと『ブラックウッド・マガジン』の歴史と20世紀における展開を中心とした出版・メディアの関係を、ただし、Rothermere卿夫人とのつながりではなく、オクスフォード大学とその知的・イデオロギー的生産を担った知識人ネットワークというコンテクストにおいて探るために、オクスフォード大学図書館あるいはロンドンの大英図書館、ロンドン大学に赴き、文献調査をすることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
11月に行った英国出張後、ウルフ協会3月例会のために京都への出張を計画し、出張費等の経費を概算で算出していたが、直前になり京都出張にかかる費用に少なからざる金額の差異があり、出張の経費として実行することが、事務的に、不可能になったために、22,907円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
この次年度使用額は、平成28年度の助成金と合わせて5月の京都で行われる日本英文学会の参加のために使用する予定である。
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