研究課題/領域番号 |
25370273
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
大田 信良 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (90233139)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 英文学 / 映像文化 / ポリティカル・エコノミー / メディア文化 / ポピュラー・カルチャー / グローバリゼーション / 金融資本 / 教育 |
研究実績の概要 |
1. 「ヘリテージ映画」以降の英国映像文化と「英文学」の変容については、まずは、以下の3つの論文、「ノエル・カワードと再婚の喜劇としての『或る夜の出来事』――『長い20世紀』のなかの映像文化」、「ポピュラー・チルドレンズ・リテラチャーの勃興とガールズ・スクール・ストーリー」、「コドモの「居場所」はどこに?――英国映像文化としての『聖トリニアンズ女学院』と教育空間の変容」を出版した。また、「ポスト占領期日本のなかの『英文学』――いま冷戦を考える意味」を口頭発表した。なお、イシグロ論は、ようやく今年度9月に出版予定。ウォリック大学ピーター・ブラウン氏と、英国映画とBBC TV・ブリティッシュ・カウンシル・英語教育をめぐり情報交換した。
2.「英文学」の制度化と米文学・アメリカ研究との関係については、3つの論考、すなわち「ウルフ、ニューヨーク知識人、フェミニズム批評――もうひとつ別の『成長』物語?」、「『自由と規律』――英国の文化・教育の特質とはなんだったのか」、ならびに、「サイード、『アメリカの優勢――公共空間の闘争』、ウィリアムズ『文化の社会学』――アソシエーションおよび階級分派の概念の歴史化のために」を出版した。
3. 出版メディア・大学制度に関わる研究の調査として、11月に英国ロンドンの大英図書館およびInstitute of Educationにおいて、アルフレッド・ハームズワースの大衆レヴェルにおける出版・教育事業のネットワークをなす教育学者アーサー・ミーと児童向け英語教科書作成もした児童文学者イニッド・ブライトンについて文献調査を行う、と同時に、短編小説の革新から実験的小説に至る英国モダニズム文学を、そのような新たに勃興した出版メディアの生産・流通形態への反動形成として再解釈する可能性を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 今年度9月にようやく出版予定のイシグロ論を除いて、「ヘリテージ映画」以降の英国映像文化と「英文学」の関係については、具体的に研究計画した成果を発表してきている。さらにまた、英国映画を、BBC TV・ブリティッシュ・カウンシル・英語教育との関係にまで拡大して、研究をまとめる準備が整いつつある。
2.米国における「英文学」の制度化において、50年代のニューヨーク知識人や地域研究が有した冷戦イデオロギーが、70年代のハイルブランのフェミニズム文学批評やサイードによって批判されたオリエンタリズムにどのように変容しながら進展・転回していったか、明らかにすることができた。
3.「英文学」の冷戦期米国における制度化においてその基礎となった文学概念である英国モダニズムの概念が、19世紀末以来の出版メディアや流通過程の変化に密接にかかわっていることが明らかになり、大衆レヴェルでの英語学習や教育の問題と有意義に結びつけながら、変容する「英文学」の歴史を「長い20世紀」言い換えれば福祉国家の生成・確立・終焉からネオリベラリズムの歴史的勃興やグローバルな展開として、まとめる準備が整ってきている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 「ヘリテージ映画」以降の英国映像文化については、「長い20世紀」の始まりと終わりについて、それぞれ別個の研究を行う。1つは、流通・メディアのフォーディズム化と消費の帝国アメリカという観点から、19世紀末・20世紀はじめの英国教養小説の変容、たとえば、「芸術家と市民の分裂」と旧来みなされてきたものを再解釈する。もう1つは、グローバル・コールド・ウォーという観点から、いわゆる冷戦終結後に変容したかたちで残存する冷戦の地政学と20世紀後半の「英文学」を新たに見直す。その上で、これまでの個々の研究をまとめる。
2. これまでの個々の研究を再整理し統一的にまとめ直すとともに、冷戦期米国で制度化された「英文学」の制度化が、占領期および独立後の日本の「英文学」の研究・教育制度とどのような相互関連をもってきたか、そしてまた、戦後のイギリス文学・文化の復活・流行・啓蒙と冷戦期における英国の文化政策がどのようにひそかな関係をもっていたのか、それぞれ明らかにすることにより、これまで以上にグローバルな地政学的空間とその歴史的過程において、変容する「英文学」という本プロジェクトのテーマを総括する。
3. 今年度5月末から6月にかけて英国に出張し、ロンドンの大英図書館において、オクスフォード大学に制度化されトランスアトランティックおよびグローバルに流通・転回した「英文学」と出版メディアの歴史的展開や再編について、調査する。今回は、とりわけ、1930年代にT・S・エリオットが密接なかかわりをもったオクスフォード大学の知識人ネットワーク・人脈に焦点をあて、『ブラックウッド・マガジン』の変容を中心に、文学・文化あるいは研究・教育をめぐる出版業界やメディア空間を帝国アメリカとの関係においてまとめ直したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の書籍の納品のスケジュールと本学図書館の収書締め切りのスケジュールが、当初予定していた時期とずれたため、収書手続きならびに予算執行に、若干のずれが生じたために、12,364円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
この次年度使用額は、平成29年度にすでに納品済みの書籍の収書手続きにおいて、使用する予定である。
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