本研究は、発展途上にあるロマン派期イギリス・アイルランド小説のジャンル研究を進化し、文学史観を修正することを目的とする。ロマン派期小説は、リアリズムを近代小説の規範とするイアン・ワット『小説の勃興』(1957)の影響下、長年過小評価されてきた。近年、ジャンル研究の一分野としてようやく認められ受容研究も進む中、リアリズムとロマンスの要素を混在させる特性が同時代批評でも批判されていたことが指摘されている。最近の再評価は、この特性の肯定的な評価を試みているが散発的であり、成功しているとは言い難い。本研究は、ロマン派期小説の基幹サブジャンルとして「国民小説」(national tales)に注目し、「政治的現実」との交渉を共有した教育・職業言説と独自に結びつけることで、難航する再評価に新たな視座を寄与することを試みる。 平成25年度は、1.近年のイギリス文学批評、アイルランド文学批評における「リアリズム」と「ロマンス」の定義をめぐる論争における問題点を確認した。2.ロマン派期小説の同時代批評を概観し、「リアリズム」と「ロマンス」に関する用語や概念の理解を深めた。特に、Michael Gamerの先行研究を踏まえ、「現実のロマンス」というサブジャンルに注目した。3.「現実のロマンス」の主要作品(シャーロッテ・スミス、クレアラ・リーヴ、アメリア・オーピーらの作品)の先行研究の論点整理に着手した。
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