研究課題/領域番号 |
25370277
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
大野 美砂 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (30337711)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナサニエル・ホーソーン / 大西洋奴隷貿易 / 船乗り / セイラム |
研究概要 |
本研究の目的は、ヨーロッパ、アフリカ、カリブ、アメリカを結んだ大西洋奴隷貿易がアメリカン・ルネサンス期の小説にどのような影響を及ぼしたかを明らかにすることである。2013年度は計画に従い、18世紀末から19世紀半ばの大西洋奴隷貿易に関する基本的な事象を理解するとともに、ホーソーンの船乗りだった先祖たちの仕事に関する資料を集め、ホーソーンの先祖の仕事が大西洋奴隷貿易と絡んでいた可能性を検討することに時間を費やした。研究の成果は、論文「ホーソーンと船乗りたち――環大西洋奴隷貿易との関連をめぐって」にまとめ、それが論集『アメリカン・ルネサンス――批評の新生』(開文社、2013年)に掲載された。本論文は、18世紀後半から19世紀半ばにおけるセイラムの国際貿易港としての活動に関する資料、ホーソーンの父親の航海日誌、ホーソーンの伝記などを分析することでホーソーンが奴隷貿易について詳しく知っていたことを証明し、それが「税関」や『緋文字』の船や船乗り、商人の描写に影響を及ぼしたことを指摘したものである。2013年度にはまた、エコクリティシズム研究学会で「21世紀のエコクリティシズムの実践」と題する特集をジャーナルに発表する企画に参加。2013年8月の大会では、『アメリカ文学――エコクリティシズム特集号』に関するシンポジウムで司会・発表を行ったほか、本研究学会のジャーナル第7号(2014年8月刊行予定)では特集の総論と、地球空洞説の伝統の中に惑星思考を探るヘスター・ブラムの論考の紹介を執筆した。その他、2013年度に出た成果には、「エコクリティシズムの名作――Paul Outka. Race and Nature from Transcendentalism to the Harlem Renaissance」(『エコクリティシズム・レビュー』第6号、2013年)がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度にはまず、アフリカやカリブを含めた大西洋世界に関する研究書(Paul GilroyのBlack Atlanticなど)や、大西洋奴隷貿易に関連する研究書(James RawleyのTransatlantic Slave TradeやDavid Eltis他のAtlas of the Transatlantic Slave Tradeなど)を精読することで、トランスアトランティック研究や大西洋奴隷貿易に関する最新の研究動向を理解するよう努めた。また2013年7月にボストンとセイラムを訪問し、ホーソーンや彼の先祖と関係の深いセイラムやマサチューセッツの海や商船に関する資料を収集した。ボストン公立図書館やセイラム歴史協会などで貴重な資料を入手することができたが、セイラムのピーボディー・エセックス博物館のフィリップス図書館が長期にわたる改修工事期間中で、アクセスできる資料に制限があり、予定していた資料を読むことができなかったことが残念であった。この点については、2014年のアメリカ出張時に再びフィリップス図書館を訪問し、資料を閲覧したいと思っている。2013年度はさらに、ホーソーンの伝記を読み、彼の先祖や彼自身と大西洋奴隷貿易の関係を示唆する記述を探した後、ホーソーンの作品、特に、船乗りや商業貿易の描写が見られる「税関」や『緋文字』と関連する批評を読み、作品をトランスアトランティックな枠組みの中で捉え直した。これらの研究の結果を、論文「ホーソーンと船乗りたち――環大西洋奴隷貿易との関連をめぐって」にまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度は2013年度に続き、トランスアトランティック研究や大西洋奴隷貿易、マサチューセッツの海や商船に関する研究書を読みながら、主にハーマン・メルヴィルの作品、特に『白鯨』や「ベニト・セレノ」と関連する批評を読み、作品をトランスアトランティックな枠組みの中で捉え直したいと思っている。9月にはアメリカでの調査と資料収集をしたい。ボストンを拠点に、ハーバード大学図書館、ボストン公立図書館、マサチューセッツ歴史協会、コンコード公立図書館、セイラムのピーボディー・エセックス博物館で調査・資料収集を行うほか、ケープコッドやナンタケットなど、メルヴィルが関係をもった19世紀の捕鯨港を訪問できたらと思っている。研究費は主に、書籍の購入のほか、アメリカ出張の旅費に使用したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年7月にアメリカに出張し、9日間ボストンに滞在したが、交通費や現地での滞在費が予想していたより高額であり、予定よりも多くの研究費を支出してしまった。一方で、購入を予定していたノート型パソコンや書籍の一部の購入には、所属大学から支給される研究費を使用することができた。そのため、2013年度の使用額を当初の予定以下に抑えることができた。2014年度と2015年度にもアメリカ出張を予定しており、そのときにも予定以上の費用がかかることが予想されるため、2013年度の残額は翌年度以降のアメリカ出張で使用したいと考えている。 2014年度には、図書費として、トランスアトランティック研究や大西洋奴隷貿易、マサチューセッツの海や商船に関連する研究書、メルヴィルの作品、特に『白鯨』と「ベニト・セレノ」に関連する批評書を購入することに研究費を使用したい。また、2014年9月にアメリカ出張を予定している。ボストンに10日間くらい滞在する予定であるが、そのときの旅費にも研究費を使用したい。さらに、2014年8月に神戸で開催されるエコクリティシズム研究学会大会、2014年10月に北海道で開催される日本アメリカ文学会全国大会出席のための旅費にも使用したいと考えている。
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