2015年度は、特に2つのことを目標に研究を進めた。まず2014年度に続き、トランスアトランティック研究や大西洋奴隷貿易、マサチューセッツの海や商船に関する研究書を読みながら、メルヴィルの作品をトランスアトランティックな枠組みの中で捉え直す作業をおこなった。9月にはボストンを拠点にして資料の収集をしたが、ナンタケット島での調査で捕鯨に関する貴重な資料を多数入手することができたのは大きな収穫だった。最終的には、19世紀のマサチューセッツにおける捕鯨やメルヴィルの作品に描かれた航海と大西洋奴隷貿易の関係について論考にまとめたいと考えているが、まだいくつか解決していない問題があり、今後もう少し継続して研究をおこない、近い将来に研究結果を発表したいと思っている。 また2015年度は本研究の最終年度になること、ホーソーンに関する論集に執筆する機会をいただいたことから、3年間で研究した大西洋奴隷貿易に関する資料を用いながら、ホーソーンが南北戦争中の晩年に書いた作品を分析することにも時間を費やした。その結果は、論文「ホーソーンの戦争批判――晩年の作品を中心に」と論文「『ナショナルな風景』の解体――『主として戦争問題について』をめぐって」にまとめ、前者は論集『ホーソーンの文学的遺産』(開文社、2016年)に、後者は『エコクリティシズム・レヴュー』の第9号に掲載されることが決まっている。これらの論文は、ホーソーンが南北戦争中に書いたエッセイ「主として戦争問題について」や未完のロマンス『セプティミアス・フェルトン』に焦点を当て、奴隷制度をめぐって北部と南部が対立した南北戦争に対するホーソーンの態度を明らかにしたものである。
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