研究実績の概要 |
本年度の研究実績は以下のとおりである。 (1)平成25、26年度に分析の対象としなかった寡婦・寡夫文学作品―Thomas DekkerのThe Honest Whore, Part I(1604)、John MarstonのThe Dutch Courtesan(1605)など―を分析し、前年度までに構築したデータベースに情報を加えた。(2)近代初期英国における若者文化と寡婦・寡夫文学との関連性を、ドメスティシティとジェンダー生成の概念変遷の側面から解明した。近代初期英国に関するドメスティシティとジェンダー生成の最新の研究成果を批評視座に取り込み、寡婦・寡夫文学と若者文化の密接な関係を浮き彫りにした。(3)近代初期英国の寡婦・寡夫文学の系譜と、若者概念の成型、そして若者の教育との関連性を、当時の家政学の書、教育書、コンダクト・ブックを分析することによって明らかにした。(4)全体の研究成果の総括を行った。(5)上の4つの分析から以下のことが解明された。(a)近代初期英国における寡婦・寡夫文学はジェンダーやドメスティシティの概念によってきわめて厳密に規定されるジャンルであると同時に、当時のジェンダーやドメスティシティの概念を生成するイデオロギー装置であったこと、(b)寡婦・寡夫文学は若者が主役となる民衆的祝祭を含みこむことで、当時の若者文化を表象し、そうした文化の成熟を加速させるモメントとなっていたこと、(c)近代初期英国の寡婦・寡夫文学は、当時の権力と性の関係性を顕在化させる文化的装置であったこと。
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