研究課題/領域番号 |
25370288
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山形県立保健医療大学 |
研究代表者 |
梶 理和子 山形県立保健医療大学, 保健医療学部, 准教授 (60299790)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ジェンダー / 親密圏 / 公共圏 / 共感 / 規範 |
研究概要 |
「長い18世紀」における、女性リバタイン[放蕩者]の表象を軸に、女性たちの共感に基づく親密圏の形成(課程)を考察するために、理論的基盤の再検討、および女性の放蕩にかかわる言説の分析をおこなった。 具体的には、当時の女性の放蕩に対して抑圧、排除のみを重視するという姿勢(初期フェミニズム批評)を見直すために、女性の放蕩に関する言説の生産性・創造性に関する理論基盤を検討し(ジェンダー批評)、デイヴィッド・ヒュームやアダム・スミスによる共感(同感)という概念に注目し、ハーバーマスによる公共圏の形成に関する議論を親密圏という観点から再検討した(公共圏の形成に関する理論)。 理論的可能性を検討する一方で、女性リバタイン表象を分析するために、作品や歴史資料等の収集をおこなった。Library of Royal Society(ロンドン)においては、17~19世紀における女性の規範的言動を規定する社会文化的、科学的概念(身体や精神等にかかわる)を探るために、「感情」のシステム論等の記録や図解資料といった手稿の閲覧をはじめとする調査・研究をおこなった。ほかに当時のさまざまな流行(賭け事、ファッション、コレクション)に関するテクスト(一次資料、二次資料)等も収集し、その後、女性の放蕩に関する言説との関係性の観点から、分類・整理している。 以上のような理論的基盤の整理、作品と関連資料の収集(・分類・整理)をおこないつつ、異端とされる存在である女性たちの間に、どのようにして共感に基づいた親密圏が生じるかを、作品(とりわけSusanna Centlivreといった18世紀初頭の女性作家の作品)を中心に分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「長い18世紀」における女性の放蕩に対して、抑圧、排除のみを重視するという姿勢(初期フェミニズム批評)を見直し、より高い生産性・創造性の可能性を探るために、ジェンダー批評の再評価と、ハーバーマスによる公共圏の形成に関する理論の再評価をおこなったが、一方、予定していた出版文化論の再評価はやや不十分の感がある。また、長い18世紀に実在したさまざまな女性リバタインに関する言説、また、その人物像にまつわる文学テクスト以外の言説、とりわけ、日記類、政治パンフレット(諷刺)等における表象といった資料については、十分に収集できなかった。しかしながら、収集できた資料等についてはデータベース化をすすめつつ、女性リバタイン表象の分析を多方面からおこない、一部を、平成26年3月の時点で、成果として発表したことで(アメリカ18世紀学会)、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
25年度実施の、女性リバタインに関する理論的基盤の整理、テクスト・資料の収集および分類・整理といった成果を踏まえて、次の3点から具体的なテクスト分析をおこなう。 1. 男性作家による女性リバタインに関する言説分析(長い18世紀の男性(劇)作家によるリバタイン言説を前年度の成果に基づき再検討を加えつつ、女性リバタインに関する言説の持つ意味に注目する。その際に、女性リバタインの批判・排除の言説だけでなく、それを利用・支援する言説を、テクスト分析によって析出する。 2. 女性作家による女性リバタインに関する言説分析(長い18世紀の女性(劇)作家によるリバタイン言説を前年度の成果に基づき再検討を加えつつ、女性リバタインに関する言説の持つ意味に注目する。その際に、女性リバタイン表象がどのように作家としての自己形成の問題と結びつき、さらに、そこから女性の連帯の(不)可能性とどう結びついていたのかを、テクスト分析によって析出する。 3. 実在する女性の放蕩に関する言説分析(長い18世紀における、作家ではない女性(たとえばチャールズ二世の愛人たちや、名誉革命以降の貴族の女性等)にまつわる言説を、批判、排除という観点からではなく、親密圏の形成の契機としてテクスト分析をおこなう。 以上のテクスト分析をおこないつつ、国内外の一次資料等の収集および分類・整理を継続しておこない、(データベースとして活用しやすい)テクスト・資料の充実をはかる。一方で、研究発表・論文作成のための準備作業として、研究会を開催し、研究の暫定的な成果を公表し、外部と意見交換するとともに、最終年度のための、理論、テクスト分析の最終的な方向性を確定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
成果の一部を発表する予定が、2014年3月20日~22日のアメリカ18世紀学会(ヴァージニア州)となったために、調査研究と合わせて、年度末の海外出張を計画したが、旅費(予算)の確保に余裕を持たせたことと、発表原稿の英文校閲に、時間的な問題で、本科学研究費助成金から支出できなかったために、残額が生じた。 次年度においては、研究計画にしたがい、国内外の資料収集や調査・研究、研究会の実行、また研究補助や専門知識の提供、研究支援者等の活用によって、研究課題の遂行に使用される予定である。
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