25年度・26年度計画で収集した資料(17・18世紀の女性規範や、蒐集、賭け事等に対する消費行動、感情のシステム論といった社会的、科学的言説等)、および理論基盤(ジェンダー批評や、公共圏研究、リバタニズム研究等)の検討に基づいて、同時代の作品分析をおこなった。具体的には、実在の女性リバタイン(チャールズ2世の愛人や名誉革命以降の貴族の女性たち)にまつわる言説(日記や記録等の資料、詩や演劇といったテクスト)、男性作家(ウィッチャリー、エサリッジ、コングリーヴ等)、女性作家(アフラ・ベーン、スザンナ・セントリーヴァ等)による男性・女性リバタイン表象を検証した。 そこで、女性の放蕩にかかわる言説の生産/流通/需要の課程を コンダクト・ブックや定期刊行物の人気の高まりによって急成長する出版文化のコンテクストにおいて検証することで、異端(とされる人々・登場人物)をめぐる公共圏、親密圏や私的空間の変化や出現について考察をおこなった。また、新たな消費文化の登場によって、さまざまな流行(高価な輸入品の消費、蒐集や、賭け事)を追い求める女性たちが階級を超えて結びつけられる(親密圏形成の)可能性に注目して、女性の放蕩にかかわる言説の生産性・創造性を明らかにした。 以上のことから、女性リバタインと彼らの(間に示唆される、明示される)共感に基づく親密圏の形成についてまとめた。そして、放蕩する女性の排除にとどまらない、新たな社会、政治、経済的状況下での親密圏の形成の契機、それによって公共圏と私的空間が変容していく状況、主体と共同体の変容の過程等について、3年の研究期間において国内外で研究成果の発表をおこなった。そこで、今後の研究として、女性の放蕩にかかわる問題を、商人・市民階級の台頭を背景とする、共感から道徳観の形成、寛容、慈善、教養の問題へとつながる状況に照らし合わせて、検証していく課題を得た。
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