研究課題/領域番号 |
25370290
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
中地 幸 都留文科大学, 文学部, 教授 (50247087)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 英語俳句 / アフリカ系アメリカ文学 / ジャポニスム / シノワズリー / 人種差別 / モダニズム / 大西洋奴隷貿易 / オリエンタリズム |
研究実績の概要 |
本研究はアフリカ系アメリカ文学の東洋趣味の特殊性と奴隷貿易の影響を考察するものである。本年度は、5月にUniversity Press of Mississippiより発行されたRichard Wright: Writing American at Home and from Abroadと題するVirginia Smith教授編集の本に論文”Richard Wright and the American South"を発表することができた。これは、アメリカ南部社会をうたったリチャード・ライトの俳句を中心に論じたもので、ライトの俳句は日本の俳句とは違い、社会抗議のメッセージを含んだものであることを主張し、アフリカ系アメリカ人の東洋趣味のありかたを考察した。6月にはアメリカ学会の人種と民族のセクションの発表の討論者を務めた。アジア系とアフリカ系、メキシコ系などエスニック・マイノリティとアジア文化との関係に焦点をあてた発表が多く、私自身の研究の視点からそれらに対する議論・発表ができた。8月と9月にはイギリスとノルウェイとドイツに調査旅行をし、美術館や図書館をまわって、大西洋奴隷貿易およびジャポニスムとシノワズリーについての調査を進めた。またアフリカ系アメリカ人作家ネラ・ラーセンの北欧ジャポニスムについてさらに調査するためにオスロに足を延ばし、北欧ジャポニスムの展覧会を訪問して、その領域の文献などをさらに調査した。10月にはカリフォルニア大学バークレー校の図書館でヨネ・ノグチが発表した雑誌関係の調査を行った。この成果の一部として、2017年1月にハワイ国際人文学会で、ヨネ・ノグチの俳句についての発表を行った。また夏にヨーロッパで調査をしたジャポニスムとシノワズリーの研究の結果の一部は都留文科大学大学院紀要に"Looking into Exhibitions: Mimicry, Japonisme and Intermediality of Art"と題して、論文を寄稿した。またエスニックマイノリティとジャポニスムの関係に焦点を絞りながら、野口米次郎を題材に論文を書いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネラ・ラーセンにおける大西洋奴隷貿易と東洋趣味の問題、またリチャード・ライトにおける俳句の意味、などの研究はおおむね順調に進んでおり、日本と欧米作家の交流についても野口米次郎研究を通して進めてきた。ただし出版に向けての準備はまだ十分とはいえず、このプロジェクトの最終年である今年は、これまでの原稿をまとめる作業をしていきたいと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
今回はアフリカ系アメリカ文学を焦点にその東洋趣味と大西洋奴隷貿易の関係について探るプロジェクトであったが、この研究を通し、美術史家の文献における東洋美術の受容を考える必要をさらに感じるようになった。大英帝国博物館の初代東洋部部長であるローレンス・ビニョンは詩人でもあり、ビニョンの詩的ヴィジョンは東洋美術を導入するにあたっても重要な役割を果たしていると考えらえる。この意味での詩と美術の相互関係や相互翻訳の問題などが新たな課題として見えてきた、また北欧ジャポニスムなど民族主義とも相関関係を持つ東洋趣味のありようはブラック・オリエンタリズムを考える時にも有効であり、多様なジャポニスムの受容を見ていくことがこの研究には必要であることを実感した。今年度はこの新しく見えてきた課題についての調査にも着手し、それを織り込んだ形で論文をまとめ、国際学会でも発表していきたい。
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