研究課題/領域番号 |
25370292
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
梶原 克教 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (90315862)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カリブ海地域 / 文化論 / ポストコロニアリズム / 英語圏文学 / 表現媒体 / 国際情報交換 / トリニダード・トバゴ |
研究実績の概要 |
交付申請書に記した本年度の研究計画では、8~9月に西インド大学図書館で資料調査、2月にポート・オブ・スペインで現地調査をおこなう予定だったが、円安の影響で渡航費用、滞在費、コーディネート費等がすべて割り増しになったため、渡航期間を短縮し2月にまとめて調査をおこなうことになった。 まず、西インド大学セント・オーガスティン校の図書館にて、C. L. R. ジェイムズおよびエリック・ウィリアムズ関連の資料を調査した。前者に関しては書簡を中心に調査し、これまで書籍の形では抜けていた部分など補うことができた。後者については、時間的な問題で断片的ではあったが、トリニダードの初代首相エリッック・ウィリアムズとカーニバルおよびカリプソに関する関連資料を入手できた。そのなかには、カリプソニアン自身によるウィリアムズ論といったような貴重な資料も含まれる。 次に、同時期にトリニダードでマス・キャンプとパン・ヤードの調査をおこなった。今回は現地コーディネータの助力を得られたおかげで、通常はセキュリティ以上の危険があるため調査が困難な地域(たとえばベルモントなど)でも実地調査できたことが一番の成果だった。そのおかげで、ポート・オブ・スペインの都心部における観光客向けのマスと伝統的なマスの比較考察が可能になり、従来は民族間の関係を重視していたカーニバルが近年ますます地域的分断化されるようになり、階級的側面が目立つようになってきたのではないかという当初の仮説をサポートする調査結果を得ることができた。 同様に、現代も進行している民間信仰におけるシンクレティズムの証左でもある「オリーシャ」の儀式をフェボー村で見学できたのも大きな成果だった。というのも、そうした儀式の存在は、トリニダード特有の分断と異種混淆の現代的あり方の重要なサンプルとなり得るからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献資料に関してしては、C. L. R. ジェイムズ関連資料に比べて、エリック・ウィリアムズ関連資料の収集が予定よりはかどってはいないものの、全体としては目的達成に必要な資料を確保できている。近年はウェブ上で絶版中の古書も入手しやすくなっているが、いかんせん高価なため入手困難だったものも、昨年度からの繰り越し分を用いることにより収集することが可能になり、現地での調査を補えたという点でも、資料収集は順調に進行したといえる。 実地調査については、「研究実績の概要」にも記したとおり、現地でのマス・キャンプやパン・ヤードでの調査は予定以上の成果を得られ、しかも研究目的設定時に立てていた仮説を立証できる可能性を高める結果となっている。 また、本年度はC. L. R. ジェイムズに絞り込んだ発表を2度おこなったさいに、今後の研究に生かせる貴重な意見交換をおこなうことができたし、それを1月に発表した論文にも生かすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で収集した資料の整理およびそれをもとにした考察をおこなうのが当面の作業である。まずは、トリニダード・トバゴの1962年の独立に向けた時期に、エリック・ウィリアムズとC. L. R. ジェイムズが国作りのために文化をどのように組み込もうとしていたのかをそれぞれ明確にし、ジェイムズの国外追放に至る原因としての双方の意見の相違を中心に考察をおこなう。 さらに、ウィリアムズが文化政策として国家行事に組み込んだ「マス」「パノラマ」「カリプソ」の現代に至るまでの変遷と受容について、今回の調査結果をもとに検討してゆく。 加えて、これまではトリニダードにおける二つの文化的主流であるアフリカ系とインド系の関係を中心に見てきたが、今回の調査によってアメリンディアンの要素が現在も民間信仰のシンクレティズムの中に残っていることが判明したため、アフリカ系と思われている文化の中にもさらに腑分けしなければならない層があることがわかった。それゆえ、「オリーシャ」に関してはさらなる現地調査と文献収集をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に研究テーマの一部が重複する他の研究補助金を受給できたため、その研究補助金を利用することで本研究課題の研究計画の一部を遂行することができた。その結果、50万円近い繰越金が本年度に回ってきた。その分をトリニダードでの調査コーディネート費等に充て、より充実した研究結果を残せたが、元の繰越金額が大きかったため約12万円の繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画を提出した段階に比べ、急激な円安傾向にあるため、渡航費や滞在費を含む海外での研究費用が割高になっている。それゆえ、繰り越した約12万円はは海外での研究費の割増分に充てる予定である。 加えて、近年ウェブ上で入手しやすくなってきた絶版中の高価な古書資料の収集にも充てる予定である。
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